研究課題/領域番号 |
18K01285
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
古谷 修一 早稲田大学, 法学学術院(法務研究科・法務教育研究センター), 教授 (50209194)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 国際刑事裁判 / 国際事実調査 / 被害者救済 |
研究実績の概要 |
本研究は、国際刑事裁判の発展が国家間を規律する国際法規範の変化を誘発している現象を「責任追及指向性の増大」と概念設定し、これを現代国際法の変容の大きな特徴として析出することを目指している。そこでは、国際法に期待される役割・目的の観点から、「融和・協調指向モデル」と「責任追及指向モデル」という二つの理論モデルを想定し、「平和のための国際法」と「正義のための国際法」、「調整の国際法」と「介入の国際法」という二種類の機能的分析視角を用いている。 令和元年度は、当初の計画どおり、紛争解決の伝統的な手法の一つである審査あるいは事実調査が、「中立的な事実の究明」から「刑事責任を立証するための証拠収集」へと転換しつつある動向を検討した。安保理の実施する近時の事実調査は、アドホックな刑事裁判所を設置するため、あるいはICCに事態を付託するための準備的調査として機能する傾向にある。さらに、シリアに対する調査委員会(Commission of Inquiry, COI)に代表されるように、安保理の機能不全(これに伴う、ICCへの非付託)を補う形で、人権理事会がCOIを使って人権侵害状況の責任追及を行う事例も見られる。こうした実行は、紛争当事者間の交渉による解決を誘引するために事実を鮮明にするという旧来の事実調査とは一線を画するものであり、機能的転換が発生していることを明らかにした。この研究成果の一部は、論文「武力紛争被害者に関する賠償メカニズムの動的展開―共通する基本原則の生成と進展―」(大阪市立大学法学部『法学雑誌』65巻3・4号)として公表され、また論文「国際人権法・人道法違反に関する事実調査の機能的変容 ― 国際法の刑事化の一断面」(浅田正彦・岩澤雄司他編『国際関係と国際法―小和田恒国際司法裁判所裁判官退官記念』(信山社、2020年9月刊行予定))は受領されている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
令和元年度に検討を計画していた事項については、関連する判例・文献の検討をおおむね完了することができた。国際的な展開としては、昨年のウィーンでの会議に引き続き、8月にローマで開催された国際刑事法専門家会合に招待され、ヨーロッパの国際刑事法研究者と研究課題に関連する問題について意見交換を行うことができた。また、12月には赤十字国際会議に参加し、ドイツ・ポーランドの研究者と共同にパネルを開催し、参加者と国際人道事実調査委員会に関する意見交換を行った。これにより、次年度以降の国際的な発信・ネットワーク形成の基礎固めができたと考える。また、こうした研究成果の一部は、年度内に2本の論文として結実している。
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今後の研究の推進方策 |
研究課題に取り組む最終年となる本年度は、過去2年間の研究を総合し、責任追及指向の国際法現象を、多様な価値の並存を前提として、これらの衝突を回避し、相互の利害を調整する機能を示す「平和のための国際法」と、国際法の存在理由を普遍的な単一価値の実現ととらえ、国際的に統一された基準を定め、これに諸国の行動を統合化する機能を示す「正義のための国際法」という対抗概念をもって理論化することを試みる。また、これに関連して、Cambridge University Press発刊の書籍に論文を掲載する依頼があり、現在執筆中である。令和2年度中に刊行される予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
令和元年度の研究では、国連の仕事でスイス・ジュネーブに出張中の3月に、ベルギーに出張し、ブリュッセル自由大学の研究者との打合せをする予定であったが、COVID-19のためヨーロッパへの渡航ができず、その支出分が6万円ほど繰越となった。令和2年度は、渡航が可能となった段階で、当初計画の打合せを行う予定である。
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