研究課題
本研究は、国際刑事裁判の発展が国家間を規律する国際法規範の変化を誘発している現象を「責任追及指向性の増大」と概念設定し、これを現代国際法の変容の大きな特徴として析出する試みである。国際法に期待される役割・目的の観点から、「融和・協調指向モデル」と「責任追及指向モデル」という二つの理論モデルを想定し、「平和のための国際法」と「正義のための国際法」、「調整の国際法」と「介入の国際法」という二種類の機能的分析視角を用いている。補助事業期間全体を通じて、紛争解決の伝統的な手法の一つである審査あるいは事実調査が、「中立的な事実の究明」から「刑事責任を立証するための証拠収集」へと転換しつつある動向を、安保理および人権理事会が設置した事実調査メカニズムの権限と実施内容を実証的に検討した。最終年となる令和5年度は、人権理事会そのものが内在させている責任追及指向性の内容について、ウクライナ紛争への対応を素材として検討し、平等適用を基盤とする国際人道法との対比において、人権保護の側面から正と不正を峻別する傾向にあることを明らかにした。これと並行して、国際刑事裁判所(ICC)において、従来締約国による事態の付託が当該捜査対象となる国家自身による付託(自己付託)に限られていたにもかかわらず、近年他の締約国による付託の現象が見られることになった点を、ベネズエラとウクライナの事態を素材として検討した。とくに、日本をはじめ43ヵ国もがウクライナの事態を付託した点をとらえ、責任追及指向の増大を示す事象として分析した。これについては、国際刑事司法における共同的な価値追及の問題として、引き続き検討を行う予定である。
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人権判例報
巻: 7 ページ: 3-25
Shuichi Furuya, Hitomi Takemura and Kuniko Ozaki eds., Global Impact of the Ukraine Conflict: Perspectives from International Law (Springer)
巻: - ページ: 229-250