研究課題
本研究は、近年の社会保障法制において増加している「事業」の意義と法的統制のあり方を分析することを目的とする。近年発展している「事業」は、従来の権利義務関係で捉えられる金銭給付等をめぐる仕組みとは異なり、相談支援や訓練機会の提供といった手続的なサービスを提供することを特徴とする。令和2年度は、本研究の最終年度として、これまでに実施してきた研究成果をまとめる作業を行った。すなわち、「事業」化の特徴を最も強く有する「生活困窮者自立支援制度」の仕組みを分析した令和元年度までの成果をベースに、従来の仕組みにおける「事業」との違いや高齢者福祉における「事業」の拡大等を踏まえて、近年の「事業」化の特徴を相対化した。具体的には、従来の「事業」は全国一律に一定の金銭給付を行うものが少なくなく、これまでの社会保障法学において中心的であった権利義務アプローチに親和的な仕組みが比較的多かったが、近年では、介護保険制度の地域支援事業の拡大など、事業化により地方分権的な仕組みが発展するようになってきた。また、生活困窮者自立支援制度では、さらに、相談支援といった非定量的で手続き的なサービスが拡大するとともに、支援体制の構築という組織面の規律が増加していったことを明らかにした。本研究では、研究期間全体を通じて、このように権利義務アプローチになじみにくく、法的規律が難しい領域について、ガイドラインや職能団体の自治的規律などのソフトローによる規律が重要であること、成熟したソフトローはハードローに適宜転換していくことが必要であることを明らかにした。また、地方分権的な仕組みは、地域間格差を伴う。そのため、個々人の生活の維持に必須のもの(所得保障、医療保障等)については、全国一律に受給権を保障する「固い」仕組みが不可欠であり、社会保険制度などを確実に維持する国の役割の重要性を再認識した。
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経営法曹
巻: 205 ページ: 118,152
Revue de droit sanitaire et social
巻: juillet-aout 2020 ページ: 673,681