研究課題/領域番号 |
18K01293
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
滝澤 紗矢子 東北大学, 法学研究科, 教授 (40334297)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | デジタル・プラットフォーム / 競争法 / 単独行為規制 |
研究実績の概要 |
本研究は、デジタル・エコノミー時代における競争法・政策のあり方について、特に単独行為規制に焦点を当てて基礎的考察を行うことを目的としている。この点、今年度は、我が国においてもデジタル・プラットフォーム規制に関して、政府内の研究会等を通じて競争の観点からに限らず様々な検討が行われ、その内容が公表された。そこで、まずはこれらを整理・検討する作業を行なった。 次に、この問題に関する検討が進んでいる欧米における規制状況を検討した。まず、東京大学で開催された競争法国際ワークショップに登壇し、Pinar Akman教授とインテルEU司法裁判所判決についてコメントを行うとともに、欧米の研究者とデジタル・プラットフォームの問題について英語で議論した。 競争の観点からの規制については、EUがもっとも活発である。この点、デジタル・プラットフォーム事業者であるFacebookの個人データの収集・処理の手法について、市場支配的地位の濫用の観点から規制を行なった、ドイツ連邦カルテル庁の決定(2019年2月6日)をいち早く検討し、東京大学で開催された「プラットフォームと競争法」と題する国際ワークショップにおいて、英語で報告し、質疑応答を行なった(2019年4月12日開催)。 一方で、広く普及したプラットフォームで販売することを制限するという取引制限を行うことも別の競争上の問題を提起する。EUでは選択的流通制度という枠組みの中で、EU司法裁判所がCoty先決裁定を、ドイツ連邦最高裁がAsics判決を出したり、EU競争当局がGuessに対して制裁金を賦課するなど、理論的に見逃せない動きがある。そこで、これを整理・検討して、東北大学経済法研究会で報告を行なった(2019年3月11日開催)。そして、これを論文としてまとめて、公表するべく準備を行なっている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
前記のように、デジタル・プラットフォームに対する競争の観点からの規制について、我が国における検討状況を的確に把握できるよう、報告書等の公表文書を読みこむことで、現状認識がさらに深まっている。さらに、予定通り上記の欧米の先行研究や当局報告文書の精査を行なっているほか、内外の有力研究者と本研究課題について議論を深める機会を得て、実際に、検討内容を報告し、フィードバックを得ることができた。 上述の国際ワークショップにおいては、リーズ大学教授のPinar Akman教授とは、インテル判決に限らず、プラットフォーム事業者が行うMFN条項がもたらす競争問題についても意見交換することができた。また、NYU First教授、Florida大Sokol教授とは、アメックス連邦最高裁判決を中心に、プラットフォーム事業の競争法上の分析手法について議論した。また、ソウル大学Yong Lim教授とも、本問題について意見交換を行なった。デジタル・プラットフォームの問題が国際的な広がりを持つだけに、国際的視野を持って検討を進めることが重要であり、人的な国際ネットワークを広げることもできた。この点については、計画以上の進展があった。 これ以外にも、デジタル・プラットフォームと競争政策について検討する内外のシンポジウムや研究会に参加して、新たな知見を広げることができた。 成果について、初年度から英語の口頭報告を行なえたことも上述の評価につながっている。
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今後の研究の推進方策 |
引き続き、この問題に関する我が国における議論状況を的確に把握した上で、欧米の競争当局の対応や公表文書、この分野で先行している研究を地道に読み込み、精査していく。 初年度に口頭報告を行なった内容を発展・整理し、論文として公表する。 この問題に関しては、EUにおいて、活発な規制が行われる傾向があり、EUおよびEUを構成する各国の競争当局内での議論も盛んである。同時に、デジタル・エコノミーと競争に関して先端的な研究を行なっている研究者も、EUに所在する者が多い。とりわけ、何人かのイギリスの研究者がこの問題について活発な研究発表を行なっている。そこで、実際にEUの議論の現場に足を運んだり、これらの研究者との共同研究を行うことも視野に入れながら、研究を進めたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
ソウル大学での国際共同研究のための出張について、航空券を大幅に安く予約できるなどしたために、旅費を抑えることができた。また、前年度の終わり頃にパソコンが壊れて急遽買い替えたため、本科研費による支出をよていしていたパソコンを購入する必要がなくなり、物品費も当初予定よりは少なくなった。 次年度は、Oxford大学に長期間滞在して国際共同研究を行うことを予定しているため、当初見込み以上に旅費と滞在費が必要になると考えている。これに加えて、当初の予定通り、研究に必要な書籍購入費、国内の研究会等に出席するための旅費、国内外での通信環境を整備するための費用が必要である。
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