本年度は、これまでの調査・研究内容について、論文にまとめて公表した。新型コロナウイルス感染症パンデミックの影響により、口頭報告の機会が限られたため、成果は全て論文公表により行った。 昨年度までの調査・研究、とりわけEU・イギリスのデジタル・エコノミーに関する競争法規制動向に関して、昨年度オクスフォード大学ヨーロッパ比較法研究所・競争法政策研究センターに在籍して行った実地調査・研究の成果をまとめて、以下の2つの論文を執筆し、掲載が確定している。「優越的地位の濫用における因果関係―デジタル・プラットフォーム事業者による個人データの取得・利用を中心に」(東北大学法学85巻1号1-40頁掲載予定)、「景表法と優越的地位の濫用に対するエンフォースメントーCMAの規制動向を参照して」(日本経済法学会年報第40号掲載予定)。 前者は、市場で有力な地位にあるデジタル・プラットフォーム事業者による搾取的な個人情報の取得・利用行為に対する競争法規制の動向と、そこにおける議論状況を比較法的観点から丹念に検討し、競争法上の搾取規制を行う上での因果関係論精緻化の必要性を説くものである。昨年度のイギリス在外研究中に行った口頭報告から得たフィードバック等を還元させたものであり、本研究の主要実績に位置付けられる。 後者は、デジタル・プラットフォーム事業者の単独行為として、表示と搾取の問題を取り上げ、違反行為の早期差止めと被害回復の観点から、有効なエンフォースメントを行う上でどのような改善が必要と考えられるかについて、イギリス競争当局であるCMAの規制動向を参照しつつ検討を行ったものである。 他にも関連業績として、我が国における個別規制について論じた、「最近の事例から見る優越的地位濫用規制」(公正取引841号4頁)、「デジタル・プラットフォーム運営事業者同士の企業結合」(ジュリスト1552号6頁)を公表した。
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