企業ネットワークの課題状況をフランスでの先行業績をもとに整理した。企業組織化には生産場所・経済的社会的組織・金融グループという各レベルがあるが、経済的社会的組織としての企業という伝統的な一体性を探求するアプローチは生産場所と金融グループのレベルで困難に直面している。金融グループでは投資家は小規模の株取得により利益を得ることに関心があり、その影響力行使への労働者の対抗手段はガバナンスの一体性がある会社グループとは異なってくる。これに加えて、様々な程度の経済的相互依存を基礎とするネットワーク化された企業は業務提携を発展させることで、企業間にコントロールされた自律性の関係が生じ、新しい忠誠形態が出現しつつある。生産拠点でもアウトソーシングにより企業間関係に同様の事態が招来している。企業の上方と下方でのこのネットワーク化は、労働者の従属性における自律性を企業の独立性における忠誠と組み合わせており、主従関係と位階制的組織を基礎とする労働法を回避する。集団的労働関係のために権力の中心を識別する、個別的労働関係のために使用者を識別する、労働条件に関する責任を確立するという労働法の古典的な課題があらためて問われている。 以上のような課題状況に対して、欧米・ILOの動向からは、偽装を見分ける(真の使用者の識別等)、古典的な企業パラダイムに従って企業の構成要素を繋ぎ合わせる(事業移転での経済的社会的一体性の解釈等)、責任の連鎖をたどるために企業間の契約的・財政的関係を検討する(グループ内での雇用継続、安全責任の分担等)といったアプローチが有効であると考えられる。最後のアプローチからは、CSRにもみられる労働者の基本権尊重、共通利害に基づく労働者の集団的権利行使のための情報の透明性確保、企業間の協働目的や関係性に応じた雇用・労働リスクに関する共同責任の承認が、労働法発展の方向性として示唆される。
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