経済のグルーバル化を背景として、企業の競争力や柔軟性の追求がその組織化方法に変化をもたらしている。現在の労働契約概念は統合的な大企業モデルの影響を受けており、労働者と使用者との二項関係から雇用関係を概念化している。労働契約概念の意義を踏まえつつも、新しい労働者保護と労働者参加の仕組みが必要になっている。今年度はこれまでの研究をまとめるべく、この残された課題に取り組んだ。 労働法学からの企業概念への今日的なアプローチは、フランスなどでの先行研究を踏まえると、いくつかのアンビバレントな認識をもたらす。たとえば、企業は規制緩和のとくに選ばれた場所となる一方で、ネットワーク化を通じて統合力を緩めていく。労働法が企業という概念を取り入れたのは、孤立した当事者間の契約関係としてではなく、ある1つの権威のもとに置かれた労働者集団との関係で労働関係を規制する必要が生じたからであるが、資本がその経済活動の法形式に自由に行使できる支配力は、企業概念とその準拠状況との間に切断をもたらした。こうして企業概念は危機に陥る一方で、同様の社会的まとまりが見出されるところでは準拠手段として活用されることで、資本の支配力を規制するための法的パラダイムとして純化される可能性をもたらす。 このような積極的な意味での企業概念が形成されなかった日本法の文脈においては、企業のネットワーク化を法的に規制するために援用できる既存の規範的制度的枠組みに乏しい。さらに、集団的労働法理の労働契約準拠が根強いとともに、裁判実務上の労働者概念が狭いことが、「組織化された無責任」への法的対応の不十分さに拍車をかける。このような状況においては、働く者の集団的権利と人間としての基本権保障という原理的な観点から企業ネットワークを規制し、関連企業間の共同責任を確立することが必要となる。そのような萌芽となりうる裁判例・実務の検討を進めた。
|