本研究は、相当程度充実していると評価できる個別的労働関係法上の権利義務の実効性確保を、集団的労働関係法上の権利に基づき実現すること、そして、そうした権利や権利の実現を背景として、近時の多様化した就労形態についても妥当する権利義務の形成の実態的解明と理論的検討を目的としていた。 最終年度においては、第一に、イギリス労働法における代位責任法理の近時の展開を検討し、論文として公表した。この研究は、契約法の領域を超えて不法行為法も入れて、労働者と使用者との私法上の法的関係が、制定法上の権利義務(たとえば使用者に対する労働安全衛生に関する規制)の意義を反映しつつ、形成されるのかの全体像を理解するために行った。また、近時の同法理の展開が、就業形態の多様化の影響をどのように受けたものなのかも明らかにした。こうして、イギリス労働法全体の中での、個別的労働関係法上の権利義務の位置づけや法的性格をより正確に把握することができるようになった。 第二に、近年、イギリスにおいて労働組合のバックアップを受けつつ紛争となっている、個別的労働関係法(特に労働時間規制と最低賃金規制、賃金控除規制)の適用決定の問題について、そこでの契約解釈のあり方を明らかにした。この契約解釈の局面では、当事者が制定法の存在や機能を意識して合意ないし契約を締結することから、制定法上の規制の当事者の合意ないし契約に対する意義が表れやすいため、その具体的な内容を分析して公表した。 第三に、イギリスのPatric Elias前控訴院裁判官に書面による調査を行い、その調査の結果に基づき、イギリス法における制定法と契約法との関係を明らかにする論文を公表した。
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