日本では、「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律」が制定され、いわゆるフリーランスのうち従業員を雇用しない「特定受託事業者」に対する保護等を定めることとした。労災保険の特別加入により、一部のフリーランスへの労災補償の拡大は既に実施されていたが、クラウドソーシング等におけるフリーランスに対しても徐々に保護法制が進みつつある。 一方で、労基法上の労働者に対する時間外労働手当の支払いに関して、近年、固定残業代の問題や歩合給相当額から時間外労働等の手当を差し引く算定方法の問題が裁判で相次いで争われている。特に、運送業務の運転手などの自動車運転の業務においては、労基法上の労働時間規制を回避するため、雇用ではなく、業務請負の形式で、フリーランスへの業務委託を行うことがある。そのため、判例において、労基法上の規制を厳格に解釈して、歩合給の算定や固定残業代を違法と評価することは、事業主によるフリーランス利用へのインセンティブを高めることとなることとなり、判例の動向には関心が高まる。 本年度は、「割増賃金として支払われた調整手当の時間外労働等に対する対価性-熊本総合運輸事件」(社会保険労務士ふくおか170号26頁)で、調整手当の時間外労働等に対する対価性の問題について論じた。この事件において、裁判所は、実際の勤務状況を重視して、労基法37条等の趣旨に反するか否かを判断していた。 クラウドソーシングの就労者(特にフリーランス)をめぐる労働法上の問題について研究を行ってきたが、総じて、コロナ禍の影響を受けて、中国におけるこの問題に対する研究は、当初予定していたほどは到達できなかった。一方で、コロナ禍で、アプリを使った非雇用の就労形態が拡大し、いわゆる「労働者性」の議論が拡大し、雇用と非雇用の間に関する日本法の研究はより進捗した。
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