研究課題/領域番号 |
18K01303
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研究機関 | 東洋大学 |
研究代表者 |
伊奈川 秀和 東洋大学, 社会学部, 教授 (90304708)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 需給調整 / 職業選択の自由 / 総量規制 / 病床規制 / 経営主体 / 医療 / 福祉 |
研究実績の概要 |
2019年度は、医療・福祉の計画による需給調整について、 ①密接に関連し類似点も多いものの、法制度的には相違点も多い医療と福祉の両制度の特質や異同を法制面から明らかにするとともに、②需給調整という規制が果たして職業選択の自由等の憲法等の規範と両立し得るのかを検討することに焦点を当てた。これは、医療と福祉の連携・協力のための枠組みを実現する上では、それが法律的にも妥当なものである必要があるという、昨年度の研究によって得られた問題意識を反映している。このため、研究に当たっては、比較対象国であるフランスの制度及び政策を参考にするとともに、我が国における地域包括ケアシステム等の先進的取組の成果や課題を研究に取り入れるよう留意した。 具体的な研究としては、①制度的な医療と福祉の分断を明らかにし、需給調整の観点から医療・福祉を横断的に捉える上で解決すべき課題や解決の糸口を検討すること、②需給調整に必要となる規制が職業選択の自由等に抵触しないか規制面から検討することを主な内容として取り組んだ。いわば医療と福祉、計画と規制といったマトリックスを解きほぐす作業から、あるべき需給調整を解明することである。 年度の到達としては、以下の点を挙げることができる。①日本とフランスを通じて、少子高齢化の中での医療・福祉資源の地域偏在を背景として、医療と介護をつなぐ制度的枠組みの必要性が高まっており、実際にも様々な政策や取組(例えば、医療の病床規制に加え、福祉の総量規制)が登場している。②しかし、医療と福祉の規整制度には違いも多く、両者が総合的に接合している状況にはない。しかも、これらの規整制度が職業選択の自由との関係で伝統的な消極的規制や積極的規制のような判断枠組みでは論じ得ない複雑な状況が生じている。なお、これらの研究成果については、論文等により既に公表したところである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究に当たっては、医療と福祉、需給調整と計画といった錯綜する問題を総合的に捉え、あるべき法規性を構築することを目指している。そのために必要となるのは、医療と福祉の法制度の対する正確な理解であり、外国法制も踏まえた研究の現実妥当性である。このため、外国文献も含めた文献研究や生きた制度である医療や福祉のフィールドでの実態把握が求められる。2019年度は、医療や社会福祉の各種研究会、意見交換、現地訪問等を行うとともに、フランスでの現地調査やフランス人専門家・実務家との意見交換を行うことができた。特にフランスにおいては、我が国と比べても人口が少ない市町村同士が共同体を形成し、医療・福祉のみならす、その他の行政需要にも対応している実態を把握することができた。我が国の場合もそうであるように、法律に関する限り文献により研究ができる部分も多いが、今回のテーマのように現実的フィージビリティが求められる研究に於いては、文献研究を補完する調査が不可欠であり、そのことができた1年であった。 また、研究成果も論文等の形で公表することができたのも成果の一つである。
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今後の研究の推進方策 |
次年度は、研究の最終年度であり、これまでの研究成果を集大成することを目指す。 本研究のように社会保障の中の医療と福祉を需給調整の観点から取り上げることは、社会保障を制度別に体系化し、そこにおける国民と国との権利義務関係として捉える伝統的な社会保障法との関係が問われることになる。そこで、研究の次のステップとしては、社会保障法全体との整合性を意識した医療・福祉を貫く需給調整、計画等の制度理論を構築できるかが重要となってくる。 そこで、今後は社会保障全体との関係も意識した医療・福祉の需給調整、計画等の制度の意義を明らかにし、最終的な研究成果が得られるように研究を進めていくことにしたい。その際には、本研究が比較法の手法を取り入れていることから、フランス法の研究成果も反映するとともに、我が国の医療・福祉の現場の実態も踏まえることにより、バランスの取れた研究成果が得られるように留意していきたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
外国文献の入手に時間を要する関係で購入できない図書が生じたことにより繰越が発生した。
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