研究課題/領域番号 |
18K01303
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研究機関 | 東洋大学 |
研究代表者 |
伊奈川 秀和 東洋大学, 社会学部, 教授 (90304708)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 需給調整 / 計画 / プロセスアプローチ / サービス / 許認可 / フランス / 福祉 / 医療 |
研究実績の概要 |
2020年度は、医療・福祉サービスの需給調整、行政計画等の法的意義及び規範理論の構築に関する研究の深化を図った。コロナ禍の研究となり、そのことが病床逼迫に見られるように、期せずして、国民の健康を守るべき社会保障法における需給調整、計画等の重要性を顕在化させた。研究に当たっても、IT化の緊急時対応への応用など、最新の動向も反映させた。 具体的には、第1に、研究成果を著作に著すことである。人口減少が資源の地域偏在を加速化させることは、フランスも同様である。このためフランスで導入されているのが計画行政、企画公募等であり、これは医療・福祉のパラダイムシフトであった。日本における病床規制以外の社会福祉分野の総量規制、公募指定等は、フランスの改革に比肩しうる新たな政策手法である。また、運営基準等の遵守義務という伝統的な規制体系に加え、第三者評価等も組み込んだ許認可制度がフランスでは導入されており、そのことはサービス提供主体におけるPDCAサイクルの内在化の必要性を高める。つまり、あるべきサービス提供を描く計画のサービス提供への架橋の仕組みである。この点、フランス法はプロセスアプローチを制度内在化させている。加えて、地方医療庁の権能として、医療のみならず介護等の社会福祉分野も横断的に取り込んでいる。このことは、日本の地域包括ケアシステム構築にも通じる発想である。2020年は、このような研究成果を踏まえ、『<概観>社会福祉・医療運営論』(信山社、2020年)等を著した。 第2は、需給調整、計画等とコロナ禍の医療・福祉サービスの提供との関係である。フランスにおいて、地方医療庁の医療、介護等のサービス提供に関する司令塔としての権能が対策に反映されることになった。また、コロナ対応へのビッグデータの利用、遠隔医療等のIT化が進められた。これらの点は論文等に反映させ発表している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2020年度は、コロナ禍での研究となったこと以外は順調に研究が進んでいる。つまり、前年度までの研究をまとめることに関しては、単著、論文等を著すことができた。特に研究開始の際には予期されなかったコロナウィルス感染拡大は、許認可、運営基準等を中心とするデリバリーの仕組みの限界を浮き彫りにすることになった。サービスや給付の拡大期であれば有効な施策体系も、緊急時には有効性を低下させる。本研究が目指すダウンサイジング時代の医療・福祉サービスの規範体系の必要性は、日仏のコロナウィルス対応の違いを見ることにより再確認することができた。その一方、コロナ禍において、日仏の様々な関係者との接触は大きく制約を受けることになった。
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今後の研究の推進方策 |
今後においては、コロナ禍という制約要因はあるが、実務家、研究者等との接触の機会や現地調査の機会を設け、これまでの研究成果の検証及び深化を図ることにしたい。特にコロナ禍で重要性を増している需給調整及び計画化におけるビックデータ、ICT等の活用、逆にそれらの利用者への還元、情報保護等の側面にも光を当てた研究としていく予定である。その上で、2025年問題も念頭に置いたダウンサイジング時代の社会保障の枠組みを、財政、行政計画、許認可等の全般に目配りしながら構築することを目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
2020年度はコロナ禍での研究となり、当初予定していたフランス及び国内での調査及び関係者との意見交換等ができない状況となった。それ以外の文献研究等により補ったものの、研究を深化させるためには、次年度に繰り越さざるを得ないこととなった。次年度においては、可能な限り調査及び意見交換等の場を設けるとともに、その他の文献研究等により研究の深化を図ることとする。
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