研究課題/領域番号 |
18K01304
|
研究機関 | 神奈川大学 |
研究代表者 |
江口 隆裕 神奈川大学, 法学部, 教授 (10232943)
|
研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
|
キーワード | フランス / 移民政策 / 同化主義 / 家族呼寄せ権 / 移民支援団体 |
研究実績の概要 |
2018年度は、フランスにおける家族呼寄せ権について、フランス共和国憲法を初めとする関連法令、判例等を調査した。具体的には、9月11日から18日までフランスを訪問し、フランス共和国憲法及び外国人の入国及び滞在並びに被庇護権法典といった関連法規並びに家族呼寄せ権に関する憲法院判例及びコンセイユ・デタの裁決などを調査した。また、1972年に設立された非営利社団(association)の移民支援団体であるGisti(移民の情報と支援のためのグループ)にインタビューを行い、同団体が移民の支援活動に果たしてきた役割などを調査した。 これらの調査から明らかになったのは、フランスでも、移民の受入については政策的変遷があり、左派と右派の政治的争点であり続けてきたということである。現在では、正規の資格で18月以上フランスに居住している外国人にはその家族を呼寄せる権利が認められているが、例えば、1974年には、第一次石油危機の不況に対応するため、ジスカール・デスタン大統領の下、労働移民及びその家族の受入が一時的に停止された。これに対し、労働組合やGISTIなどの非営利組織が移民を支援する訴訟活動を行い、フランスに合法的に居住している外国人は家族呼寄せ権を有し、その家族が国内で雇用活動を行うのを禁止するデクレは無効であるとする1978年12月8日のコンセイユ・デタ裁決を勝ち取るなどの成果をあげている。他方、Gisti設立と同じ1972年には極右の国民戦線(Front national)が国民優先を政策に掲げて誕生し、やがて移民の排斥を強く主張して国民議会に議席を有するようになっていく。 このように、移民及びその家族の問題は、移民先進国フランスでも、依然として世論を二分する問題となっていることが明らかとなった。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2018年度は、家族呼寄せ権に関する法的な問題状況を調査したが、移民に関する法制度はしばしば改正されており、その全体像を把握するのにはもう少し時間を要する。ただし、フランスの移民関連施策の特徴として、政府や政党だけでなく、Gistiのような移民関連の非営利社団が存在し、それらが移民受入の現場で大きな力を発揮していることが明らかとなった。 また、フランスでは、家族呼び寄せで合法的に入国した外国人もフランス国籍を取得できる場合があり、この場合には、その家族は、当然のことながら、外国人ではなくフランス国民となる。したがって、彼らと固有のフランス人ないしフランス社会との間で軋轢が生じる場合には、外国人の同化政策のあり方の問題ではなく、フランス国民相互間における平等原則適用の問題になるとの指摘を受けた。つまり、例えば、同じアルジェリア出身の者であっても、外国人としてフランスへの同化が問題になる場合と、フランス国民平等の原則の下でアルジェリアン・コミュニティの特殊性がどこまで規範的に認められるかが問題になる場合を区別しなければならないことになる。これは、血統主義の下で外国人に日本国籍を与えることが少ない日本とは異なった問題状況であり、このような相違を理解した上で、今後の調査研究を行うのが重要なことが分かった。
|
今後の研究の推進方策 |
2019年度の研究課題としては、研究計画にあるように、フランスにおける移民家族の同化状況を調査する予定である。その際、フランス人となった移民と、外国人のままの移民とでは、前提となる法的地位が異なっていることに留意することが必要となる。 また、移民支援の非営利社団として、Gistiの他にMRAPやLa Cimadeなどの団体が存在するので、それらの活動内容も調査したいと考えている。 さらに、フランスの家族呼寄せ権は、ヨーロッパ人権条約第8条(私生活及び家族生活の尊重を受ける権利)に淵源を有するので、同条約と家族呼寄せ権の関係についても研究する予定である。
|