研究課題/領域番号 |
18K01308
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
岩下 雅充 筑波大学, ビジネスサイエンス系, 准教授 (00396615)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 司法面接 / 児童虐待 / 証人保護 / 被害者保護 |
研究実績の概要 |
本研究の目的を支える問題意識によれば、児童虐待その他の犯罪の被害者とされる子どもから供述を得て刑事手続に用いるときの刑事手続法上の問題は、供述の獲得にかかる価値・要請の相克の調整を困難ならしめるような事情と考え方が各国の制度の背景・基礎に共通して存在する(存在した)ことによって生起する(生起した)ものと考えられる。 それゆえ、本研究の開始にあたって、本研究の目的を達成するための下地として取り組まなければならないものと認めた具体的な課題は、諸外国がその制度の背景・基礎にある事情・考え方をどのようにとらえたうえで(ないしとらえ直したうえで)いかに制度・運用の変化につなげていこうとしたのかという点の分析と、このような分析を各国の制度に対して有効かつ多角的におこなうのに必要な視座の獲得であった。 本研究のとりかかりとなる平成30年度においては、以上の課題に対する以下の研究に取り組んで、今後につながる相応の成果を得た。 第1に、上記にいう視座を獲得するために、研究実施計画に沿って、ドイツの制度の内容・状況にくわしい分析・考察を加えることにとりかかった(筑波ロー・ジャーナル25号掲載論考)。この分析・考察は、制度の基礎にある考え方と制度との関係を把握する過程で、供述の獲得にかかる価値・要請の相克について法体系・法原理上の問題となるものを深く考究するために欠かせないのとともに、欧州各国の制度を特定のモデルに安直に分類するだけでなくて制度上の工夫・難点の多様性も具体的に明らかにするというねらいの実現にあたって、これに有益な立脚点を築くためにも不可欠である。 また、第2に、制度の背景にある事情と制度との関係を把握するための視座も獲得するために、供述の獲得に際する被害者の保護の必要性をドイツの立法・学説がどのようにとらえてきたのかについて検討した(筑波ロー・ジャーナル24号掲載論考)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
【研究実績の概要】において示したとおり、ドイツの制度とその背景・基礎にある事情・考え方を主たる研究の対象とすることは、本研究の遂行において枢要なことがらである。 平成30年度には、筑波ロー・ジャーナル25号掲載論考において、ドイツの制度の内容・状況にくわしい分析・考察を加えることにとりかかった。この分析・考察は令和元年度にも継続しておこなわれる。筑波ロー・ジャーナル25号掲載論考の概要は、以下のように具体性を有したものである。すなわち、司法面接に類似した手法という事情聴取の一方法を分析・考察するだけであれば、問題の解決に向けた工夫の意義やそのような工夫の難点の本質は十分にとらえられないものと考えられるため、供述の獲得と使用に関する各種の制度も研究の対象としたのとともに、制度の基礎にある考え方と制度との関係に関する知見やこの関係の把握に有益な視点を得るために、立法の過程や当時の学説にも立ち入っている。 また、平成30年度には、筑波ロー・ジャーナル24号掲載論考において、供述の獲得に際する被害者の保護の必要性をドイツの立法・学説がどのようにとらえてきたのかについて検討した。この検討をつうじて、保護を目的とした措置の正当化に関する立法事実の意義が明らかになったのとともに、この意義との関係で、制度の設計にあたって留意しなければならない法的問題も見いだすことができた。
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今後の研究の推進方策 |
本研究は、事情聴取の方式と供述の使用のそれぞれに対する規制を積極的にシステム化するという試みに取り組むものであるため、その基礎として必要となる分析・考察を多岐にわたっておこなわなければならないところ、平成30年度の成果について結論すれば、【現在までの進捗状況】において示したとおり、おおむね順調に進捗したものと思われる。 このような成果をふまえて、令和元年度は、研究実施計画に沿ったものとする。すなわち、平成30年度の研究業績をさらに継続・発展させて、今後の研究に必要な視座を豊富なものとするのとともに、ヨーロッパ各国における制度の内容・状況に対して所定の調査にとりかかって、供述の獲得と使用に関する諸外国の制度の多様性を見いだすというねらいの実現に取り組む。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額の発生については、本研究に必要な物品を順当に購入していったところ、一桁の端数が残るという状況に至ったものである。 令和元年度における経費の使用計画としては、第1に、平成30年度における研究の過程で新たに購入の必要性を認めた文献や、平成30年度のうちに入手できなかった海外の文献を購入するのとともに、第2に、テーマに関連する学会や研究会に積極的に参加するために、これに必要な出張費に予算を充てる。第1に関しては、平成30年度における研究の過程で、関連諸科学の知見も研究の推進にとって相応に重要であることが判明したため、購入する文献の一部が法律学の分野にとどまらない範囲にも拡がるものと考えている。
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