研究課題/領域番号 |
18K01311
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研究機関 | 一橋大学 |
研究代表者 |
王 雲海 一橋大学, 大学院法学研究科, 教授 (30240568)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 死刑 / 死刑冤罪 / 認罪認罰従寛制度 / 死刑冤罪是正 / 虚偽自供 / 虚偽証言 |
研究実績の概要 |
2021年度は、依然としてコロナの影響受けて現地に行って直接調査、インタビューなどを実施することができなかったが、しかし、インターネットなどを最大限に利用して研究を行っていた。その結果として次の諸研究成果が得られた。 まず、冤罪を防ぎ、刑事裁判の実質化を目指す「公判中心主義」は、中国でも2010年以後刑事司法改革の主な目標として主張されて、そのための諸改革が試みられたが、しかし、2018年になると、中国式の司法取引である「認罪認罰縦寛制度」が正式に導入されて、2021年度では刑事事件の約86%がこの制度によって処理されるようになっている。しかも、司法取引の効率性だけに注目し、その問題点をあまり意識していない。「認罪認罰縦寛制度」による虚偽供述・虚偽証言がかなり多発して、冤罪の新たな原因と化しており、死刑事件もそのことで冤罪となるリスクも高くなっている。 次に、冤罪、特に死刑冤罪の発見、是正が一時期に重要視されて、冤罪・死刑冤罪の是正が「ブーム」となった時があったが、しかし、2021年度では、その「ブーム」が消えて、冤罪・死刑冤罪の発見もその是正も聞こえなくなり、「下火」となっている。政治情勢から影響されない常時的な冤罪・死刑冤罪の発見と是正のメカニズムの構築が至急課題となっている。 最後に、中国における死刑適用の全体件数がやや減少している傾向にあるものの、ネット上の民意や社会的関心の大きい殺人などの凶悪犯罪や麻薬犯罪への死刑適用が依然として多くて、これらの類の犯罪への死刑適用を固く堅持すると政治機関も司法機関も強調している。 研究代表者は、2021年度での以上のような研究成果をまとめた本を編著して出版、公表し、学界でも社会でも大きな反響を得ている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
コロナの影響により現地に行って調査、インタビューなどをすることができず、一定の影響を受けているが、しかし、インターネットなどを駆使しておよそ研究を順調に進めている。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、もしコロナ情勢がよくなり、人員往来が可能となったら、迅速に現地に行って、死刑・死刑冤罪の関係者(加害者、被害者、弁護士、検察官、裁判官など)を訪問して、直接中国における死刑適用の現状、死刑冤罪を生み出す原因、死刑冤罪是正の実態を聞き、理論と実務との両面から研究し、日本やアメリカにおける死刑の適用状況、死刑冤罪の状況、その是正のメカニズムとの比較を通じて、中国における死刑冤罪の実態、その是正の実態、冤罪、特に死刑冤罪の防止についての制度的改革と運用的改善について研究し、関係機関に提言し、中国だけでなく、日本やアメリカなどでも研究成果を公表して、2022年度内で本研究を完全に遂行するように努める。
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次年度使用額が生じた理由 |
現地に行って冤罪特に死刑冤罪の関係者を直接訪問し、インタビューして、原始的資料・情報を得て研究を展開することは、研究の最大の特徴であるが、コロナの影響で予定されていた現地中国での調査を遂行することが不可能であったため。 今後は、コロナ情勢を見ながら、人員往来できるようになったらすぐ現地の中国に訪れて、死刑冤罪の関係者にインタビューやその他の調査を数回にわたって行う。そのために、予算の60万円を現地への出張費などに充てる。そのほかに、関係図書の購入には10万円を、中国語の翻訳機能を備えるPCやソフトの購入には20万円を、それぞれ充てる。
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