研究課題/領域番号 |
18K01312
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研究機関 | 一橋大学 |
研究代表者 |
緑 大輔 一橋大学, 大学院法学研究科, 教授 (50389053)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 第三者法理 / 位置情報 / 令状主義 / 監視型捜査 |
研究実績の概要 |
民間事業者に集積されている情報を捜査機関が取得する場合の例として、携帯電話基地局が契約者たる被疑者の位置情報履歴を集積しているところ、捜査機関の求めに応じて当該位置情報履歴を提供する場合がありうる。アメリカ合衆国の連邦最高裁は、このような事案について扱い、捜査機関が無令状で、携帯電話基地局にある被疑者の位置情報履歴を取得した行為について、合衆国連邦憲法第4修正に違反する旨を説示した(Carpenter v. United States, 138 S.Ct. 2206(2018))。平成30年度は、この判決を分析し、判例時報2379号(2018年)128頁以下の論稿にまとめた。 アメリカ合衆国の判例では、刑事手続上、個人のプライバシーが第三者によって保管・管理されている場合に、当該個人についてのプライバシーへの合理的期待が失われ、第4修正によって保護する必要性がなくなると理解されてきた。上記の判例により、携帯電話会社の有する位置情報履歴について、このような第三者法理の適用は否定されたことになる。まず、携帯電話の場合には、対象者が当該機器を所持していることから、居宅等の私的領域を含む位置情報履歴が包含され、しかも、GPS同様に個人の私生活上の事項を容易に推認・分析できてしまう点が重視されていることを確認できた。また、第三者法理の適用を否定した理由が、携帯電話会社の保管する情報の性質が、先例と異なり分析を通じて、本来は秘匿性の高い個人情報を取得することにつながる点と、利用者が位置情報の提供を事実上強いられる点に求められていることを指摘した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
アメリカの第三者法理の判例の動向について、当初の予定通り、文献を収集するとともに、分析を行い、Carpenter判決を紹介する論文を公刊した。また、この判決をはじめとする令状主義の規律に関連する問題を考えるために、日本刑法学会に計画通りに出張し、意見交換の機会を得た。これらは、いずれも計画に沿った進捗であり、順調だと考える事情である。また、計画では想定はしていなかったが、医療関係者や児童相談所職員等が得た犯罪事件に関する情報の扱いについても、検討する機会を得た。研究計画の幅を広げる契機となる点で、本研究課題の研究の進展にとって、良い事情だと考える。 他方で、文献収集に予想以上の費用を要したため、台湾に出張して予備調査を行うことができなかった。この点については、2019年度に渡航を予定しており、現地において調査を実施することを計画している。2018年度の遅れを取り戻すことは十分に可能だと認識している。 以上のことに鑑み、おおむね順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
令和元年度は、民間事業者等を経由して捜査機関が情報収集を行う場合に法的規律について、台湾の調査を実施する予定である。台湾においては、監視型捜査と民間事業者からの情報取得の関係について、インタヴュー調査を行う予定である。 アメリカの調査については、文献費用の増大に鑑みて、研究計画の中で次善のプランとしていた、文献収集およびオンラインデータベースを活用した研究に切り替えることを検討する。これにより、引き続きアメリカの判例の分析を実施する。民間事業者からレンタカーを借り受けた第三者から、転借した被疑者の場合、プライバシーの保護の必要性が低下するのか否かについて、検討することを予定している。
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次年度使用額が生じた理由 |
(理由) 残額として98,919円が生じたが、これは洋書等書籍の納品が遅れたためである。 (使用計画) 上記理由により、繰り越し分については、洋書等書籍の支払いに充当する予定である。
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