研究課題/領域番号 |
18K01318
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研究機関 | 熊本大学 |
研究代表者 |
岡田 行雄 熊本大学, 大学院人文社会科学研究部(法), 教授 (40284468)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 社会内処遇 / 施設内処遇 / 反暴力コース / 反暴力トレーニング / ドイツ少年司法 / 加害者家族 |
研究実績の概要 |
2019年度は,まず,日本においては,粗暴犯を含む発達障がいのある少年の成長発達に向けた文献収集と調査を行い,その成果を熊本法学に論説として発表した。 次いで,粗暴犯少年の再非行防止にあたっては,その家族が少年にいかに関わるかも重要ではないかとの仮説に基づき,加害者家族支援に取り組むNPOと連携し,粗暴行為に至った者の家族がどのような状況にあり,被疑者段階から粗暴行為に至ったとされる本人にどのような関わりが可能なのかについて検討を行った。また,飲酒等の嗜癖のある若年で粗暴行為に至った者の社会復帰を支援する「リカバリハウスいちご」を訪問し,そこでのグループワークに参加し,粗暴行為に至った者であっても,その尊厳の回復が同種再非行・再犯の帽子にとって重要であることが明らかになった。加えて,少年院を仮退院した者などを対象とする自立援助ホームを運営するチェンジングライフへの参観を通し,粗暴犯少年を含めた元非行少年との関わりにおいては,その立ち直りのためには,社会内や施設内における傷つきや疎外体験に寄り添うことの必要性も明らかになった。 他方,ドイツでは,3つの州で反暴力トレーニングを社会内処遇として提供しているNPOをそれぞれ訪問し,そこでの担い手の方々への聴き取り調査を行った。その結果,反暴力トレーニングの一環で行われるグループワークにおいては,参加者とファシリテーターとの間に暖かい雰囲気が何よりも大切であり,このグループワークにおいては,信頼と尊敬が極めて重要なルールとなっており,このプログラムの成否に,少年達の家族も大いに関係していることが明らかになった。また,ノルトライン=ヴェストファレン州の少年刑務所であるイザーローン司法執行施設を訪問し,行ったインタビュー調査においても,少年を信頼し,尊敬の念を持ってプログラムを実施することは必要不可欠であることが明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
保護観察所及び少年院における調査は進展しなかったものの,粗暴犯少年の家族が,粗暴行為の防止に果たす役割についての新たな知見が得られるなど,従来の研究にない観点からの成果が得られた上に,ドイツにおける実態調査は進展し,反暴力トレーニングないし反暴力コースの理論的・実践的な骨格に関する情報を入手し,その分析が進んだから。
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今後の研究の推進方策 |
新型コロナウィルスの世界的な感染拡大によって,粗暴犯少年の処遇を行っている矯正施設や保護観察所などを訪問し,施設内などを参観し,処遇を担当している実務家などから直接話を聴くという従来取り組んできた研究方法を少なからず変更することが余儀なくされている。とりわけ,ドイツへの渡航が可能になる時期が見通せないため,ドイツにおける反暴力トレーニングについての情報収集が困難になることが想定される。また,今年度参加を予定していたドイツ少年裁判所会議も来年度への延期が決定したため,この会議への参加計画も変更しなければならない。 そこで,今年度は文献に基づく分析を中心に据えて研究を進める。既に収集済みのドイツにおける反暴力トレーニングの基礎理論についての諸文献や反暴力トレーニングの成果を裏付けるエビデンスに関する諸文献を整理・検討し,これまでの訪問調査の成果も合わせて分析を行う。 必要に応じて,SkypeやZoom等を用いてドイツの担い手と情報交換を行い,実務の動向把握に遺漏がないように努める。とりわけ社会内処遇を担うNPOに新型コロナウィルスのパンデミックが反暴力トレーニングの実施に与えた悪影響についての情報収集にも注力する。 同様に,日本においても感染拡大を防ぐ観点から,粗暴犯少年の処遇に関する文献収集と分析に力点を置き,粗暴犯少年の社会内処遇の現場において生じている問題点についてはEメールないしSkypeやZoom等のツールを用いた聴き取りによって訪問調査の代替を行い,研究に遅れが出ないように努める。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウィルス感染拡大防止のため,2020年3月に計画された研究会・学会や調査のための出張が悉く中止されてしまったため。
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