研究課題/領域番号 |
18K01326
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
三宅 新 北海道大学, 大学院法学研究科, 准教授 (30621461)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 保険法 / 自動車保険 / 行為規範 |
研究実績の概要 |
平成30年度は、約款で新たに登場した免責条項に関する研究を進めた。具体的には、反社会的勢力免責条項や、自動車保険における酒気帯び運転免責条項である。これらの条項は、それぞれ反社会的勢力や飲酒運転に対する立法の変化や社会による厳格視とともに、自動車保険の自損事故等に限って導入された条項である。 これらの条項をめぐる裁判例や先行研究は、その普及とともに増えてきたが、しかし、それはこれまで十分に理解されてきたとは言い難い。とりわけ、酒気帯び運転とは道路交通法・同施行令で定められた数値以上に該当する場合を指し、酒気帯び運転免責条項はそれを前提に文理解釈上はあらゆる数値でも該当するかのような規律になっている。しかし、これまでの酒気帯び運転に関する裁判例や先行研究は、酒酔い運転免責条項が状態免責、すなわち酒酔い運転に該当したという事実があれば自動的に免責される条項であるとの前提で進められてきたことが明らかとなった。そのため、酒気帯び運転免責条項の解釈に対する批判が必ずしも噛み合っていなかった。 くわえて、裁判例においては、運転が酒気帯びか否かというだけでなく、酒気帯びに対する認識があったといえるかとか隠蔽しようとしたか等の行為規範に対する評価が結論に影響を与えてきたと考えられる。 それでは、酒気帯び運転免責に対する解釈として、運転者の行為規範性からその帰結を導くことは正当といえるだろうか。これについては、最近になって保険契約の最大善意性を否定したとも見られる法改正がなされた英国法との比較を行なった。その結果、行為規範性を解釈に取り込むことは、決して否定されるべきではないことを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
保険法における免責条項は、時代とともに変更されてきており、そのため新たな免責条項については、当然ながら裁判例や先行研究の蓄積が十分に存在するとはいえない。本研究は、保険者免責には行為規範性等の成文法以外の背景があることを明確にすることであるから、このような免責の一分野である酒気帯び運転に関する研究を進めることができたのは、大きな収穫であった。 次に、これまでほとんど個人的に研究対象としてきなかった英国法に関する研究を進めることができた点は、英国保険契約法に関する知識を蓄積するだけでなく、新たな研究手法を身につけることができた点でも得るものが大きかった。
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今後の研究の推進方策 |
平成29年になされた債権法改正と平成20年になされた保険法制定との比較がとりわけ重要であるとの見方を得つつある。すなわち、債権法改正においては、実務家等からきわめて多くの批判がなされ、その多くは実現しなかった。他方で、保険法は、それほど多くの反対はなされずに、順調に改正が実現したといえる。そこには、民法と商法との違いもあるだろうが、これらは契約に関する規律である点は共通しており、このような違いを正当化できるかという疑問がある。 今後の研究は、以上のように、民法との差異を意識しながら進めることになる。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成30年度の研究費に関しては、少額の残高が発生しているが、これは経費の節減・効率的使用によるものである。この残額は本年度の比較的早い段階で、民法関係の研究書籍等を購入するための費用に充当して使用する。
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