研究課題/領域番号 |
18K01326
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
三宅 新 北海道大学, 大学院法学研究科, 准教授 (30621461)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 保険法 / 重大事由解除 |
研究実績の概要 |
保険法における重大事由解除について、これが信頼関係破壊の法理の一環であるとの学説が多数を占めるようになってきている。本研究では、これが否定されることを明らかにした。 具体的には、信頼関係破壊の法理とは、民法上の賃貸借契約をめぐって展開された法理であり、民法541条と612条に関して確立されたものである。前者については、継続的契約という立法時に想定されなかった不備を補うために主張され、後者については、顕著な住宅不足の中で賃借人を保護するために主張されたものである。これらは、多分に政策的目的が背景に存在し、単純に信頼が要件に入っている解除権というわけではなかった。 これに対して、保険法の重大事由解除とは、当初は将来効を当然の前提として考えられており、遡及的免責は、例外的に考えられるものとして、特に理論的な裏付けなしに提案されたにすぎない。しかし、ある裁判例を契機として、遡及的免責を伴う即時解除権が実務上求められることとなったため、遡及的免責を伴う重大事由解除が約款に導入された。もっとも、そこでは民法で確立された信頼関係破壊の法理との関係は特に顧みられることはなく、その点は約款規定の適用を認めた裁判例でも同様であった。そして重大事由解除が現在の保険法で立法化されるにあたっては、信頼関係破壊の法理と関係があるかのような特定の学者の見解が間接的に影響を与えつつ、明文上は信頼を損なうことをあたかも要件とするかのような条項が議論されることなく採用された。 以上から、保険法の重大事由解除では包括条項で「信頼を損な」うことを重大事由との要件としているかのようであるが、そこにいう「信頼」とは特段の意味がなく置かれているにすぎず、少なくとも信頼関係破壊の法理との関係は認められない。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
保険法の行為規範性を論じる上で密接に関連している重大事由解除について、その理論的な根拠に関わる研究成果を公表することができたため、この点は順調といえる。しかし、研究成果を報告する機会が新型コロナウイルスの関係で不透明となってしまい、それが「(3)やや遅れている」との評価につながった。 以上の点については、現在も当初の予定通り研究会等が開催されるには至っていないが、様々な研究会がオンラインで開催されるようになってそれが定着するようになったため、それを利用することになる見込みである。
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今後の研究の推進方策 |
一連の研究によって、重大事由解除という法制度に存在する遡及的免責という効果が、行為規範性に重要な役割を果たしていることが確認できた。この遡及的免責の理論的な位置づけを明確にしていくことが今後の課題となる。
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次年度使用額が生じた理由 |
経費の節減・効率的使用による。もっとも、次年度使用額は1万円以下であり、これは図書の購入費にあてる。
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