これまで、酒気帯び運転免責条項、反社会的勢力排除条項、重大事由解除に分けて検討してきた。いずれも共通する点として、行為規範性を重視して結論を下すことは認められるべきと考えるが、そのためには理論的な面からの裏付けが必要であるということである。 本年度に取り組んだ点は、研究課題が最終年度であることから、前年度までに明らかにした内容のうち、重大事由解除においてそれが信頼関係破壊の法理とは無関係である点を、この後課題とする研究に連続性を持たせるよう結びつけた点にある。 具体的には、裁判所は、重大事由解除によって免責を与えることになるところ、この際に重大事由解除の理論的背景として、①信頼関係破壊の法理、②危険増加法理、のいずれに則って政策判断を下していくかが問題となる。これについては、現在の保険法が信頼を損なうという文言を用いて重大事由解除を起立していることから、①を採用したとの見解が存在する。しかし、免責を導くにあたって①が成立しないことを過去の学説や立法経緯から明らかにしたため、今後は②にもっぱら焦点を当てて研究していく根拠を与えた。 くわえて、保険法制定過程では、保険事故発生前の他保険契約の累積に関する問題は告知義務違反で対処し、保険事故発生後のそれは重大事由解除で解決するとの意見の合致があった。そこで根拠とされたのは、重大事由解除が信頼関係破壊を求める高度な要件を課している点にあった。しかし、これまでの研究からその前提が否定されるため、今後は他保険契約の累積に関して、別の手段を使うことによって、免責の主張が濫用的に用いられないようにする必要がある。以上の点で、今後の研究課題と結びつくものとした。
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