研究課題/領域番号 |
18K01329
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研究機関 | 山形大学 |
研究代表者 |
コーエンズ 久美子 山形大学, 人文社会科学部, 教授 (00375312)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 分散型台帳技術 / 証券振替 / 間接保有 / 直接保有 |
研究実績の概要 |
本研究は、証券振替制度、電子記録債権といった権利移転の制度において、分散型台帳技術を中心にフィンテックと呼ばれる技術の活用がもたらす制度構造の変化に対する望ましい法規制(法規整)について検討することを目的としている。本年度は、証券振替制度において分散型台帳技術を利用することにより、現行の間接保有システムから直接保有システムに移行することの可能性について考察し、とりわけクロス・ボーダー取引でいっそう懸念される口座管理機関に関するリスク(破綻、業務ミスなど)の回避について検討した。 まず、これまで公表されている文献を中心に現状を分析をし、かつ2017年9月14日に開催されたオックスフォード大学における間接保有証券についてのワークショップでの議論を踏まえ、日本銀行金融研究所においてペンシルベニア大学ムーニー教授と共同報告を行った。本報告は、現行の証券決済システムを維持した上で、口座管理機関が開設する口座ではなく、投資者が直接、証券を保有することができるシステムを構想している。この証券保有システムに、発行者も参加することによって、発行者がリアルタイムで投資者を管理することを想定したものである。本報告に対しては、わが国における現行間接保有システムは極めて堅牢であり、欧米諸国で懸念されている間接保有を巡るリスクは極めて小さいといった意見も出されたところである。 本報告を経て、わが国の証券振替決済制度のより詳細な実態、実務を調査するとともに、クロス・ボーダー取引におけるカストディ業務の実態、投資者との法的関係等について明確にしつつ、よりグローバルな視点から直接保有のあり方についてさらに検討、議論を展開する必要があると考えている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
日本銀行金融研究所での報告後、日本取引所グループおよび証券保管振替機構に対し、証券振替決済制度について実態、実務についての聞き取り調査を行った。分散型台帳技術の証券振替決済制度への適用については、現時点では、想定されておらず、実証実験や技術的な展開等について情報収集をしているとのことであった。 また、オックスフォード大学においてDigital Assets Workshopがガリファー教授を中心に発足し、2018年9月14日(ワークショップの立ち上げ、課題の整理、今後の進め方など)、2019年11月23日に第2回目のワークショップに参加し(テレビ会議システムを利用し遠隔参加した)、欧米諸国の研究者、市場関係者等と現状の問題点、今後の展開の方向性、法的問題点等について意見交換、情報交換をした。本ワークショップは、digital assetsの法的性質、digital assetsの管理を投資家のために行うカストディアンや交換業者の法的地位、監督業法など多面的に検討し、研究成果を報告する場となっている。 こうした情報収集、意見交換を踏まえると、分散型台帳技術を利用した権利の移転のシステムにおいては、それに必要とされている「秘密鍵」の管理をするカストディアンの役割が重要であることが明らかになってきた。そうであるにもかかわらず、カストディアンの法的地位が不明確な部分が多いようであり、さらなる調査、分析、検討が必要となっている。また、権利移転のシステムの法規整を考える際には、分散型台帳技術だけでなくスマートコントラクトやAIの進展も考慮する必要がある。
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今後の研究の推進方策 |
オックスフォード大学の第3回Digital Assets Workshopが、2019年6月に開催されることになっており、参加者による個別研究報告がなされる予定である。テレビ会議システムにより遠隔参加し、さらなる情報収集を行う予定である。 また国連国際商取引委員会および私法統一国際協会が共同して、ブロックチェーン、スマートコントラクト、AIといった分野の法規整のあり方を検討する動きがある。進展の早いこれらの分野について、現状把握、問題点の整理、法律家の貢献のあり方など、情報を共有するとともに共同して作業を進める方向性が示されている。こうした情報、議論から、権利移転の制度への活用についても、示唆を得たいと思っている。 他方、わが国においては資金決済法の改正を通して、暗号資産(仮想通貨)交換業者に顧客資産の分別管理、顧客に交換業者の資産に対する先取特権を付与するなど、顧客保護を充実させてきている。こうした状況についても、ワークショップ等の中で発信し、情報の共有をはかりつつ、さらなる意見交換をしていくことを考えている。
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