研究課題/領域番号 |
18K01329
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研究機関 | 山形大学 |
研究代表者 |
コーエンズ 久美子 山形大学, 人文社会科学部, 教授 (00375312)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 証券 / 分散型台帳技術 / 間接保有証券 |
研究実績の概要 |
本研究は、証券振替制度、電子記録債権といった権利移転の制度において、分散型台帳技術(D L T)を中心に新しい技術の活用がもたらす制度構造の変化に対する望ましい法規制(法規整)について検討することを目的としている。これまでの聞き取り調査等からわが国では、証券振替制度については構造的な変化を模索する動きはなく、日本取引所グループや金融機関等の連携の下、投資家からの売買注文から決済までの過程の中で、DLTの活用によって業務の効率性や顧客の利便性の向上を目的とした検討が行われている状況にある。 一方、欧米諸国においては、証券の間接保有形態の問題点に焦点が当てられてきている。投資家の証券は、中央預託機関を始め複数の口座管理機関を通して保有されており、投資家と証券発行者との直接的な法的かつ事実的な関係がない上、中間に介在する口座管理機関の間の関係も、それぞれの層で分断されたものとなっている。投資家は、口座管理機関の破綻リスクや事務的なミスのリスクを負う一方、株式の場合には、発行者である会社が投資家の実態を把握することが困難なため、マネーロンダリング等の問題に対応することができないことが指摘されている。こうした視点から、DLTの活用によってより効率的な証券の振替、直接保有システムの構築が可能となるのではないかという問題提起がなされ、さまざまな関係者を交えた議論が始められているようである。証券の振替制度においてDLTが適用されることになれば、DLTの特徴の一つであるトランズアクションのための「秘密鍵」に関連して、証券の「所有」や「譲渡」、「担保の設定」などを規定する必要がある。アメリカ統一商法典第8編(投資証券)では、「支配」という概念が、これらの規定におけるキーワードとして機能している。DLTが適用される場合にも同様の規定が必要になってくるのではないかと思われる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、暗号資産(仮想通貨)を含め、Digital Assetsやスマートコントラクトに関連するさまざまな問題、議論状況について文献収集を行い、ワークショップ等に参加した。まず2019年5月6日および7日にユニドロア本部(ローマ)で開催されたユニドロア(私法統一国際協会)と国連商取引委員会(UNCITRAL)による共同ワークショップ(JOINT UNCITRAL/UNIDROIT WORKSHOP)に参加した。暗号資産、スマートコントラクト、AIに関する法的問題について欧米諸国からの研究者、実務家による報告、質疑応答から各国の状況、それらに対する見解などについて情報収集した。 さらにオックスフォード大学において、2019年6月26日に開催された第3回Digital Assets Project Conferenceに、zoomによるリモート参加をした。ビットコインをはじめとする暗号資産の定義、法的性質、これを所有するということはどのような意義を有するのか、交換業者やカストディアンと呼ばれる暗号資産の管理者はその保有者とどのような関係にあるのか、といったさまざまな問題点について欧米、アジアからの参加者が報告を行い、質疑応答がなされた。 また2020年2月より1カ月間、ペンシルバニア大学Law Schoolにおいて在外研究を行い、本研究について協力を依頼しているムーニー教授に、証券決済、振替制度におけるDLTの活用についての議論状況などについて聞き取りを行った。こうした活動から、欧米諸国における新しい技術の活用の可能性、法的な対応の関心の高さ、議論の進行状況について多面的に情報収集することができた。いずれにせよ、新しい技術を既存の法理論の中でどのように位置付けるかについては、技術的な発展とともに議論が進行中であり、引き続き詳細な分析と検討、さらなる情報収集が必要である。
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今後の研究の推進方策 |
オックスフォード大学主催の第4回Digital Assets Project Conferenceが、2020年6月25日にzoomを利用して開催されることになっており、さらなる情報収集を行う予定である。またアメリカ法律家協会を始めとする関係諸機関の動向についても、zoom等を利用し、聞き取り調査を行う予定である。 暗号資産にせよ、証券の振替、保有にDLTを活用した場合にせよ、資産の保有者は、多くの場合、交換業者や口座管理機関を通して保有、権利譲渡、権利行使を行い、またその態様にかなりのバリエーションがあることが明らかになっている。まずは、こうした財産の保有者と管理者との関係を基礎に、投資家保護のための私法的な規制について検討していくこととしたい。これとともに、わが国の資金決済法の改正においても見られるように、監督的な観点からの規制の重要性が、イノベーションを促進しつつ、強調されてきている。監督規制のあり方に留意しつつ、これまでの検討、考察の結果をまとめていくこととする。2020年9月の愛知大学におけるワークショップで、これら研究成果を発表する予定である。
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