研究課題/領域番号 |
18K01329
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研究機関 | 山形大学 |
研究代表者 |
コーエンズ 久美子 山形大学, 人文社会科学部, 教授 (00375312)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | デジタル / 証券 / 分散型台帳 |
研究実績の概要 |
本研究は、有価証券や電子記録債権、さらにはより広く資金調達のために発行される証券を保有、移転するための制度において、分散型台帳技術(D L T)を中心に新しい技術の活用がもたらす制度構造の変化に対する望ましい法規制(法規整)について検討することを目的としている。暗号資産については、交換所の破綻等に対応するため、資金決済法が改正され、また有価証券等についてもこうした技術を活用したものを「電子記録移転有価証券表示権利等」として、金融商品取引法の適用対象とする改正がされ、監督的な規制が進展してきている。 一方、私法上の取り扱いについては、そもそもこうした技術が活用された仕組みにおける「電子的な記録」の法的性質が何であるか、あるいはどのようなものとして取り扱うべきか、といった根本的な論点から、権利の移転、第三者対抗要件、担保(優先順位)、権利の実行、準拠法など、多岐にわたる問題について議論が蓄積される過程にあるといえる。ユニドロア(私法統一国際協会)は、国連商取引委員会(UNCITRAL)との共同ワークショップを経て、2020年にデジタル資産に関する法的問題を検討し、法的原則、立法ガイドの策定を想定したプロジェクトを発足させた。法系独自の概念を使わず、また今後の技術的な進展に対応できるよう、特定の技術に依らないという方針の下、ワーキンググループによる検討が進められている。同時に、米国統一商法典の改訂委員会の作業においても、「電子的な記録」について物の占有に類似する「支配可能性(controlable)]」という統一商法典第8編で創設された概念を用いて、規定の策定、他の編の改訂が検討されている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
2020年は、コロナウイルス感染拡大のため国外、国内への移動が著しく制限されたことから、当初予定していた現地での聞き取り調査、文献収集等は実施できなかった。一方で、オンライン開催となったUNIDROIT主催のワークショップ(2020年9月)、オックスフォード大学主催のワークショップ(2020年6月、2021年1月)に参加し、ヨーロッパを中心に、議論の状況、動向について情報収集した。また、米国の動向については、限定的ではあったが、オンライン会議システムを活用した聞き取りを行った。しかし、コロナ禍における時間的制約、その他の要因により、それらの分析とそれを踏まえたこれまでの研究成果をまとめることができずに年度末となってしまった。
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今後の研究の推進方策 |
ユニドロアのプロジェクトは、2022年にガイドの策定を想定していることから、2021年はさらに集中的なワーキンググループによる検討がなされるようであり、引き続き、その動向について情報収集を続ける。同様に、米国統一商法典の改訂についても、スピード感のある議論が展開されているので、その進展について情報収集を続ける。また、わが国においてもさまざまな「権利」のトークン化についてのニーズを踏まえた理論的な検討が進んできている。これまで収集した情報を分析し、譲渡、第三者対抗要件、担保権の設定等に関し、理論構成のあり方、方向性について一定の到達点を示したい。加えて、トークン化された有価証券の発行、流通は国境を越えた取引がよりいっそう容易に行われることから、準拠法の決定についての検討も、併せて進めていくこととする。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナウイルス感染拡大により、国外、国内の移動が著しく制限されたことから、当初予定していた現地での聞き取り調査、文献収集を実施することができなかった。現状に照らすと、引き続き国外、国内での移動は難しい状況であるので、可能な限りオンライン会議システム等を利用した聞き取り、情報収集を進めていくこととする。また、書籍、雑誌の定期購読など文献の購入に予算を使用し、研究成果をまとめる方向で進めていくこととする。
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