本研究は、証券振替制度、電子記録債権などの支払い、決済システムにおける権利の保有、移転の仕組みについて、分散型台帳技術等の新しい技術の活用がもたらすシステムの構造的な変化に対応した適切な法規整のあり方、こうした新しい技術を活用した資金調達のために発行される「権利」の私法上の取り扱いについて検討することを目的としている。とりわけ、こうした技術を活用した金融取引は、今後いっそうグローバルに展開されることを踏まえ、国際的に「統一」された規整が指向されるところである。ユニドロワ(私法統一国際協会)は、国連商取引委員会との共同ワークショップを経て、このようなデジタル資産の私法上の取扱いについて、「原則(Principles)」を策定するためのプロジェクトを進めている。また、米国ではアメリカ統一商法典において、こうしたデジタル資産についての規整の検討、担保取引に関する第9編、その他の改訂等の作業が進められている。他方、わが国においては、金融商品取引法に規定された「電子記録移転有価証券表示等権利」についての私法上の取り扱い(民法、社債、株式等の振替に関する法律等の規定を踏まえて)についての議論が蓄積されつつある。 本研究が主たる検討目的とした私法上の規整の方向性については、現在なお情報収集と資料の整理、分析の途上であり、具体的な成果を示すには至らなかった。一方、新しい技術を活用した資金調達、金融についてはいっそうグローバルな取引が想定されていることから、監督規制法の適用も含めて、準拠法決定のルールは重要課題である(ユニドロワの原則においても触れられている)。このような観点から、新しい技術を活用した資金調達等における準拠法についてのルールを検討する前提として、従来の有価証券、振替証券、預金を対象とする担保取引の準拠法について、通則法、口座開設契約の約款等の解釈から検討を行った。
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