研究課題/領域番号 |
18K01330
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
大渕 真喜子 筑波大学, ビジネスサイエンス系, 教授 (30400625)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 事前抑制の法理 / 著作権・著作者人格権に基づく差止請求権 / 事前差止 |
研究実績の概要 |
平成30年度は、知的財産権のうち、著作権・著作者人格権(以下あわせて「著作者の権利」という)に基づく出版前の書籍等に対する差止請求権と憲法上の事前抑制の法理との関係に関する研究を主として行い、その研究成果として、「著作者の権利に基づく差止請求権――事前抑制の法理との関係を中心として」筑波ロージャーナル25号23頁以下を発表した。 著作者の権利と表現の自由との関係については、従前から研究されていたところであるが、本研究の対象に関しては、近時、著作者の権利に基づく出版前の書籍等の差止めは、北方ジャーナル最判でいう事前差止めに当たるという若干の見解等があるものの、比較法等を含めた詳細な検討はほとんどなされていなかった。 そこで、本研究では、米国法では、出版前等表現が発表される前であっても、終局的差止命令・暫定的差止命令を問わず、著作権侵害を認めながら、事前抑制を理由として著作権に基づく差止命令を認めない確定判例はないこと、ドイツ法では、著作者の権利に基づいて、未だ一度も侵害がなされていない段階での)予防的差止請求権が当然に認められることのほか、検閲と区別又は同視される事前抑制の法理に相当する概念はなく、検閲の主体には裁判所も含まれるが、私権が国家機関たる裁判所によって実現されているため、私人の申立てに基づいて裁判所が裁判による意見表明の差止めを事前に行うことは、検閲に当たらないと解されていることなどを明らかにした。さらに、わが国の判例・学説を検討し、最大判昭和61年6月11日民集40巻4号872頁〔北方ジャーナル事件〕等の理論的問題点を指摘しつつ、同最大判が著作者の権利に基づく差止請求権には妥当せず、わが国では、著作権法112条1項の要件を充足する限り、予防的差止請求権が認められることが当然の前提なのであって、ここでは事前抑制の法理自体が問題とされる余地がないことを論じた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
平成30年度においては、研究実績の概要欄で記載した問題を中心に研究しており、これに想定以上の時間を要したため、それ以外の差止仮処分及びその執行等に関する問題については、わが国での学説・判例での議論状況についての調査研究を行っているところである。不作為債務に関する間接強制決定の要件に関する問題については、ある程度検討が進んでいるが、それ以外については、着手したところであるため、現在までの進捗状況はやや遅れているとした。
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今後の研究の推進方策 |
平成31年度は、既に着手している調査研究を前に進めて、まず、わが国での判例・学説での議論状況とその問題点を整理しつつ、比較法の調査を並行して行うこととなる。可能であれば、平成31年度には、比較法から得られた知見を踏まえた研究成果を発表したいと考えるが、比較法の調査進捗状況によっては、発表できる部分のみを研究成果として発表するか、全体を平成32度に発表するかを検討する必要が出てくる。
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