令和2年度は、昨年度に引き続き、不作為債務に関する間接強制について、我が国の学説・判例の追加的な検討を行うとともに、特にドイツ法に関する文献調査を中心に行ったが、現在まだ調査がすべて終わっていないため、引き続き行う予定である。 また、不正競争防止法(営業秘密の不正取得等)に基づく差止請求訴訟においてとりわけ重要となる営業秘密の訴訟上の保護に関して、2019年に施行されたドイツ営業秘密保護法(Gesetz zum Schutz von Geschaeftsgeheimnissen)を中心としドイツ法の調査を概ね終わらせ、特許権侵害に基づく差止請求訴訟等での営業秘密の訴訟上の保護にも範囲を広げてドイツ法の文献調査を行った。 これらの結果を踏まえて、ドイツ特許侵害訴訟等における訴訟上の営業秘密の保護をテーマとする論稿を執筆中であり、2021年度には発表を予定している。また、上記調査のほか、令和元年度の秩序罰(Ordnungshaft)に関する調査を踏まえて、我が国の民事訴訟一般における秘密保持命令の導入について、どのようにあるべきかということについて、論稿をまとめて東京大学民事訴訟法研究会(2020年7月25日開催)において口頭報告を行った。 上記報告においては、不正競争防止法に基づく差止請求においては、原告の営業秘密が秘密保持命令の対象とならない(不競法10条1項柱書但書)ため保護されないことの問題点を指摘し、ドイツ営業秘密保護法の議論等を踏まえて、従来の考えとは異なり、そもそも審理によって判明するまでは、原告の営業秘密を保護すべきであり、被告が訴訟以外の方法で取得・保有するに至った場合(つまり請求認容判決がなされる場合)には、秘密保持命令を取り消すことで対処すればよいという見解を提示した。
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