研究課題/領域番号 |
18K01332
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研究機関 | 東京海洋大学 |
研究代表者 |
金岡 京子 東京海洋大学, 学術研究院, 教授 (70377076)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 自動運転 / 対物賠償責任保険 / 運転者の過失 / 道路運送車両法 / 道路交通法 / ドイツ道路交通法 |
研究実績の概要 |
本年度は、保安基準を満たす自動運行装置を用いた自動運転中の事故において、対物賠償責任の前提となる運転者の過失について、①走行環境条件に反する使用をした場合、②不適切に自動運行装置に介入し、運転者自ら運転操作した場合、③自動運行装置からの運転操作引継ぎ要求に応じなかった場合、④運転操作引継ぎの必要性を認識しなかった場合に類型化し、ドイツ法との比較法的検討を行った。 自動運行装置の製造者の説明書等による明確で理解しやすい説明があり、運転者が走行環境条件および自動運行装置の使用方法を習熟しており、十分な時間的余裕をもった運転操作引継ぎ警報があり、警報に従って運転者が運転操作をしない場合に車両が安全に停車し、保安基準を満たすドライバーモニタリングが行われている限り、運転者の過失による事故発生の可能性は低くなることを前提として以下のことを明らかにした。 ④の類型においては、ドイツと同様に、自動運行装置からの警報がなくても、明白な事情により、走行環境条件を満たさなくなったことを直ちに認識すべきであったが、スマートフォンの画面を注視していた等運転操作以外の活動に没頭していたその認識ができなかった場合も考えられること、上記明白な事情は、自動運転中に運転操作以外の活動が認めらる状況下においては、自動運行装置からの警報がなくとも、一般の平均的運転者であれば当然認識できる程度の明白な事情であって、その認識の有無は、自動運行装置を使用しない通常の運転中に求められる運転者の注意義務より低いレベルの注意義務を基準とすべきであること、③および④においては、自動運行装置の警報が発せられたとき、または走行環境条件を満たさなくなったとき、運転者が直ちにそのことを認識し、確実に運転操作をしなかった場合に、ドイツと同様に、運転者が遅滞なく運転操作を引き継がなかったことに過失があったと考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2019年度は、自動運転車の市場化へ向けたITS構想・ロードマップに基づき、2020年に高速道路で自動運行装置を用いたレベル3の高度自動運転が可能な自動車の市場化へ向けた技術開発、制度整備、実証実験、国際基準調和へ向けた取り組み等着々と進展した。 本研究は、上記の事情を踏まえ、交通事故において件数が多い対物事故における迅速な被害者救済を目的とする対物賠償責任保険に着目し、自動運転中の対物事故において、保険給付の要件である被保険者が交通事故による被害者の損害について法律上の賠償責任を負う場合をドイツ法との比較法的検討を行った。自動運転中の事故による対物損害の賠償責任については、本研究において重要な研究課題であることから、本年度は、日本の法改正を踏まえた運転者の過失に関する研究を推進できた意義は大きかったと考える。 本研究は、2019年度日本保険学会全国大会における個別報告において、学科報告を行い、学会における議論、意見を踏まえ、さらに、その後の自動運行装置の保安基準等も反映し、論文として公表できる段階まで達したことから、おおむね順調に進展していると考える。論文の執筆は終了しており、日本保険学会の規定に基づく学会誌への投稿を行った。論文の公表時期は、2020年中であると見込まれる。 今後は新型コロナウィルス感染予防対策の影響により、2020年度から2021年度にかけてドイツで調査すべき研究が遅れる可能性、国際基準の調和が遅れる可能性、レベル3の自動運転車の市場化の時期が遅れる可能性等があるが、収集できる資料等に基づき、研究に著しい遅れが発生しないように、検証可能なものから順次研究を進めることとする。
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今後の研究の推進方策 |
2020年度は、自動運転中の事故による損害について、製造物責任法の製造物の「欠陥」による損害であると認められる事案について、ドイツ法と比較法的検討を行う。その際には、自動運行装置に備えるべき運行記録装置に記録されたデータに基づく事故原因の検証が必要となることから、保安基準に基づき記録されるデータ、記録義務者、記録期間、利活用の方法等について、ドイツ法と比較法的研究を推進する。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度購入した洋書の価格が、ユーロと円の為替相場の変動により、計画より若干低くなったことにより、本年度884円の残額が発生しました。次年度の洋書など研究に必要な書籍の購入のために使用する予定です。
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