研究課題/領域番号 |
18K01332
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研究機関 | 東京海洋大学 |
研究代表者 |
金岡 京子 東京海洋大学, 学術研究院, 教授 (70377076)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 自動運転 / 製造物責任 / AI開発者の民事責任 |
研究実績の概要 |
本年度は、限定地域での遠隔監視のみで、自動運転レベル4に相当する運転者がいない状態の自動運転移動サービス(特定自動運行)実現のための道路交通法改正法(2022年改正道路交通法)が公布され、2023年4月1日から施行される予定となったことを踏まえ、自動運転車両の製造者の民事責任および対応する責任保険の在り方について研究した。 本研究においては、特に特定自動運行車両で使用される自動運行装置に着目し、自動運行装置の認知、判断、操作、予測のために必要な外部データの種類、外部データ認知装置の特性、外部データの送受信方法、装置内部のデータ伝達方法、自動制御プログラムの特性等を踏まえ、特定自動運行における製造者の関与の程度に応じた民事責任を検討した。この検討においては、特定自動運行の事業化に向けて実証実験を積み重ねてきた永平寺町の無人自動運転バスの事例における製造者の運行関与の程度、自動運転バスの運行主体となる事業者、車両の製造者、自動運転システムの開発業者、外部データ配信事業者、インフラ整備事業者、ならびに保険会社の協力体制を先行事例として検証した。 さらに本研究においては、特定自動運行装置に使用されるソフトウエアおよび人工知能のアップデート、セキュリティ対策、入力データに応じた機械学習を通して、特定自動運行装置の製造者が、車両引渡し後も特定自動運行装置に対する影響を及ぼしていることに着目したドイツ法との比較法的検討を行った。その結果、現行の製造物責任法制の見直しが必要であること、および事後原因究明協力体制を前提とした新たな企業保険による補償の必要性を明らかにした。その成果は、2022年11月6日に開催された日本保険学会全国大会第Ⅱセッション(法律系)において報告し、無人自動運転の製造者責任の新たな研究を推進する契機となった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究においては、高度自動運転の実証実験の事例および自動運行装置の特性を踏まえた製造者の関与に応じた製造者の損害賠償責任、対応する保険の在り方については、日独両国における道路交通法改正の内容、学説の比較法的検討によって、概ね順調に研究を推進することができた。 しかしながら、新型コロナ感染予防対策のため、ドイツで現地調査を実施することができない期間が3年間続いたため、自動運行装置のブラックボックスに記録されたデータを活用した原因究明に基づく、適切な自動車事故損害賠償金の補償体制ならびに求償制度についての研究は途上段階にある。 また、AIの民事責任に係る新たEU指令案ならびにソフトウエア製造者の民事責任に対応するEU指令の改正案が2022年9月に公表されたことに伴い、本研究対象が拡大したこと等の影響を受けた。 したがって、本年度の段階では、上記ドイツ現地調査の未実施に伴う未達研究があったこと、および関連するEU指令を調査対象に加えたことにより、着手できない研究対象が生じたこと等の事情があったことから、本研究はやや遅れているものと評価した。
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今後の研究の推進方策 |
今年度は、本研究期間を1年間延長し、ドイツベルリン自由大学法学部において、EU指令の改正案を踏まえた自動運行装置製造者の製造物責任、対応する保険制度の在り方についての文献調査等を実施し、その成果を論文として執筆し、日本保険学会の保険学雑誌に公表する予定である。 本研究において最も困難な課題は、自動運行装置の記録装置に記録されたデータに基づく事故原因究明体制に関する研究の推進である。この課題については、車両の記録装置だけでなく、インフラの装置に記録されたデータ、データ通信事業者が保存するデータとの連携も視野に入れた日独比較法研究を行うことによって、解決策を見出すことが可能であると考える。
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次年度使用額が生じた理由 |
2023年3月20日から同年4月4日まで、ドイツベルリンに出張し、到着翌日の同年3月21日から出発前日の同年4月3日までベルリン自由大学法学部において、本研究遂行のための必要な文献調査等を実施した。 そのため、本研究の次年度使用額は、上記ベルリンにおける調査研究のための出張旅費に使用したものである。
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