最終年度においては、主に、従来型の財産承継方法(被相続人による遺言等)以外の方法による財産承継と、相続の基本的制度との関連に関する研究をした。従来型ではない財産承継の方法(信託や生命保険等)と、遺産共有、遺産管理、遺産分割の諸制度との関連を明確にしておくことで、被相続人となる者は、多様となっている財産承継方法の中から自己の希望に適うものを選択しやすくなり、相続のアレンジメント・プランニングの積極的な活用につながる。 検討の過程では、遺産共有や遺産分割を、相続人の利害関係が交錯する場としてのみではなく、被相続人の意思を反映させる場としての視点も持ちながら分析することの重要性が明らかになった。例えば、遺産分割には、古くから、相続人間の調整のためとして「持戻し」のしくみが存在するが、同時に、被相続人の意思による「持戻し免除」もしくみとして組み込まれていることはそれほど重視されてこなかった。持戻し免除は、平成30年民法改正による民法903条の4の新設によって、脚光を浴び始めているものの、さらに進んで、遺産分割自体について、被相続人からのアプローチも取り入れられる場でもあるという視点を入れた検討をすることで、被相続人にとって利用しやすい、相続のアレンジメント・プランニングにつながる理論の構築が可能となる。 被相続人にとっての相続のアレンジメント・プランニングの利用しやすさという観点は、当然、従来型の財産承継方法においても重要である。そこで、遺言の方式要件を、遺言者の高齢化、社会のデジタル化を踏まえ、遺言書の作成を容易にするという方向性だけではなく、遺言者自身の真意が確保される、偽造変造されにくい、確実に実行されると信用できるという方向性で見直した(その成果の一部は、立法的提案も含め、近日中に公表予定である)。
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