研究課題/領域番号 |
18K01338
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
清水 真希子 大阪大学, 法学研究科, 准教授 (50302641)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 民事法 / ソフトロー / トンランスナショナル・ガバナンス / 私法 / 規制ミックス |
研究実績の概要 |
筆者は、共同研究「トランスナショナル・ローの法理論――多元的法とガバナンス」に研究分担者として参加しているが、本研究は、当該共同研究に触発されつつ、そこではとらえきれない問題があるのではないかという認識にもとづき、規範のフォーマル性・インフォーマル性に着目して分析をしようとするものである。 このような切り口は、少なくとも民事法学においては、これまでに自明とされているものではない。そのため、そもそもどのような問題設定をするのが有効なのかについての検討が必要である。平成30年度は、本研究のフェーズ1として、上記共同研究の一環として執筆した論稿(下記拙稿①②)での分析を前提として、本研究を推進するための問題設定に関する検討を進め、その内容の一部について現在論文を執筆中である。具体的な検討内容は、(1)「様々な規範が複合的に秩序を作り出す」という、拙稿②で導いた視点を設定するのが有効であること、(2)そこでいう規範の中には、ハードローからソフトローまで、また、フォーマルなものからインフォーマルなものまで、グラデーションのある様々なものが含まれること、(3)私法の観点では「私的な秩序形成」は当然視されているため従来こうした現象を取り込むことができていなかったが、対象領域の政策領域化に伴い、(1)のようなアプローチをとり、その中で私法を理解する必要があること、等の点である。
拙稿①「ソフトロー――民事法のパースペクティブ(1)~(3・完)」阪大法学67巻6号277-309頁、68巻2号135-162頁、68巻3号253-282頁(いずれも2018年) 拙稿②「規範の形成とエンフォースメント――ハードローとソフトローの相対化のための枠組み」河上正二・大澤彩編『人間の尊厳と法の役割』〔廣瀬久和先生古稀記念〕信山社、2018年、489-511頁
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究計画では、フェーズ1として、本研究が依拠する理論枠組みを検討し、フェーズ2でそれに基づく実証的な研究、フェーズ3で理論的な分析を行う予定である。 平成30年度は、フェーズ1に関する部分を進展させることができ、おおむね形が見えてきている。その意味で、おおむね予定に従った進捗状況であると判断している。 もっとも、フェーズ1の研究を進めるにしたがって、当初とは異なる方向に進んでいる部分もある。本研究の構想時は、筆者のこれまでの研究歴から「企業間取引」に着目していた。しかし、検討の進展に伴い、企業との関連で、フォーマル・ルール、インフォーマル・ルールについての検討を進めるのであれば、より広い視点で企業に関する規範を観察し、「企業間取引」という限定を緩めた方がより有効なのではないかと考えるに至っている。この点については、今後、実証研究を進めるにあたって、さらに検討を進めていきたい。
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今後の研究の推進方策 |
フェーズ1に関する研究は、現在執筆中の論文を公表して、近日中に一応完了させる予定である。そのうえで、フェーズ2では、フェーズ1で示した理論的関心のもと、平成31(令和元)年度および令和2年度を通じて、実証研究を進める。 実証研究の対象として、現段階では、「企業の社会的責任」(Corporate Social Responsibility, CSR)が適切ではないかと考えており、現在、予備的に資料の分析を進めているところである。CSRが有力な研究対象候補とである考えられる理由は、①歴史的にインフォーマルなものであった規範が、近年、フォーマルなものに変化していっているとみることができそうであること、②国際的なソフトローの形成とエンフォースメントが、企業行動に強く影響を与えているとみられること、③多種多様な規範が関係しており、規制の複雑なミックスが生じているようであること、④これらの規制が私法(ハードロー)にも影響する兆しが見られること、といった点である。 場合によっては、もう一つの対象領域に関する研究も行い、2つを比較するということも考えられる。理論的な関心から、その際の比較対象の候補として、「コーポレート・ガバナンス」、あるいは「消費者保護」が有力であると考えており、これらに関しても資料の収集と検討を進めている。 その後、フェーズ3として、フェーズ2の実証研究をもとにした理論的な分析を進める予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成30年度の予算として予定していたもののうち、外国書籍にかかる費用が見込みよりも少なくて済んだため、未使用額が発生した。 平成30年度の研究により、問題の設定と実証研究の対象領域が明確化したため、それに基づき、平成31年度以降に具体的な対象領域に関する内外の文献資料を多数購入する予定である。
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