研究課題/領域番号 |
18K01339
|
研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
山本 顯治 神戸大学, 社会システムイノベーションセンター, 教授 (50222378)
|
研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
|
キーワード | 消費者撤回権 / クーリングオフ / 効率的契約違反 / 市場法としての消費者法 / 厚生阻害要因への制度的対応 / 消費者契約法 / 不確実性 / 契約責任 |
研究実績の概要 |
令和2年度は、特定商取引に関する法律、割賦販売法等に設けられている消費者撤回権を法学、経済学双方の観点を用いて検討した。消費者撤回権の法的性質については、従来これを意思表示の瑕疵の特例と理解する見解が多数であった。これに対し、本稿は、より一般的な取引ルールとして消費者撤回権を理解できることを論じた。 第一に、取引開始時に買主にとって商品価値が不確実であるという取引に広く存在する厚生阻害要因への制度的対応が消費者撤回権であることを明らかにした。これにより、消費者撤回権は契約責任制度の一般的ルールと共通する基礎を持つことが判明し、これまで効率的契約違反論において論じられてきた売主による契約違反事例と対比すると、消費者撤回権は消費者による効率的契約違反事例と理解することができ、両者はパラレルな関係に立つことが明らかになった。また、無償撤回権においては、過剰行使により増加する費用が価格に転嫁され、これにより買主は撤回権行使により免れた不利益以上の損失を被ること、さらに一部の買主が市場から退出するという厚生阻害が惹起されることを論じた。 第二に、有償撤回権を消費者契約法に任意規定として法定することは社会厚生を改善し、撤回権に対して異なった選好を持つ消費者に対しそれぞれの選好に合致した契約を提供することが可能になると論じた。他方、強行規定とすると、撤回権を不要とする消費者に上積みされた価格を課し、撤回権を不要とする消費者から撤回権を必要とする消費者への内部補助を強制する結果となると論じた。 第三に、不確実性という取引一般に見られる厚生阻害要因への制度的対応として消費者撤回権を理解することは、意思表示の瑕疵の特例として消費者撤回権を捉える従来の立場に縛られず、契約責任論の枠組み、契約法総論の枠組みにおいて消費者撤回権を捉えるという新たな立場への展開を可能にすることを論じた。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の予定通り論文の形で研究成果を公表できており、おおむね順調に進展している。関連する論文も昨年度脱稿済みであり、書籍所収の形で公表される予定となっているが、全体の編集の関係で令和2年度中の公表は実現しなかった。近々発刊されると思われる。 最終年度の今年度も引き続き複数の論稿を執筆、公表する予定である。
|
今後の研究の推進方策 |
当初予定通り、これまで本科研の支援の下に蓄積してきた研究に基づき、今年度も複数の論稿を公表する予定であり、現在、執筆は順調に進んでいる。
|