研究課題/領域番号 |
18K01339
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
山本 顯治 神戸大学, 社会システムイノベーションセンター, 教授 (50222378)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 交渉促進規範 / 解除権 / オプション権 / 不完備契約 / ホールドアップ問題 / 契約の選択論 / 契約類型 / リスクシェアリング |
研究実績の概要 |
2021年度は①「交渉促進規範としての解除権とオプション権 -縮小社会におけるホールドアウト問題の私法的規律」、角松=山本=小田中=窪田編著『縮小社会における法的空間 -ケアと抱摂-』(日本評論社)、および、②契約類型の戦略的選択 -strategy of contract choice- 山本=後藤等編著『法律行為法・契約法の課題と展望』(成文堂)を公表した。前者①については、現在わが国は縮小社会に直面しており、そこで課題となる都市内部における空間形成、地域再編においては、多数の利害関係者の参加を促進する地域創造のコンセプトが求められていると考え、このとき、多数の利害関係者の交渉ルールを適切にデザインすることで関係当事者の"private ordering"を尊重した問題解決を実現できるのではないかとの問題意識から、いわゆる「ホールドアウト問題」に対処するための契約的規律について考察した。そして逐次売買において発生するホールドアウト問題と不完備契約論にいう「ホールドアップ問題」の共通性を明らかにし、これに対処するための契約的規律としての契約の任意解除権、オプション権を検討した。いずれもホールドアウト問題を抑止し、当事者間交渉を促進する規範、即ち、交渉促進規範として機能することを見た。後者②については、ビジネスを遂行しようとする当事者が、どのような戦略に基づきある契約類型を選択し、あるいは新たな契約を創案するのかという問いを立て、「契約類型選択の基礎にあるロジック」について考察した。②は、統一的な理論枠組みに基づき契約類型の特質・機能を明らかにしつつ、契約類型の戦略的な選択という観点をわが国の契約法学に導入しようとする試みの第一歩である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題は概ね順調に進捗している。2021年度は本来本科研費研究課題の最終年度であったが、コロナ禍のもと、外国研究者を招いての共同研究を実施することが大変困難であった。また、次の研究課題へのステップとして実証的調査を実施する予定であったが、これも実施することが困難であった。その中、理論分析については順調に進捗し、上記論稿を公刊することができた。また、本研究課題をもとに、神戸大学法学研究科、神戸大学経済学研究科、神戸大学社会システムイノベーションセンターに所属する研究者を中核とし、他大学の法学、経済学研究者も参加する「文理融合型法経連携法政策学研究」が進展しており、本研究は新たな段階に進んでいる。今後とも継続的に研究成果を公刊してゆく予定である。
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今後の研究の推進方策 |
これまで理論研究を中核として、契約法に経済学的視点を取り込んだ研究を行ってきた。現在神戸大学を中核とし、諸大学の法学、経済学の研究者と共同研究が進んでいる「文理融合型法経連携法政策学研究」においては、モデルをベースにした理論分析のみならず、実証研究を専門とする研究者の参加も見ており、現在実証研究へと研究手法を拡張しつつある。仮に次回科研費研究課題として採択されたならば、これまでの理論研究の蓄積に加え、実証研究を取り込んだ新たな法学の方向を示す研究を公表できると思われる。なお、「文理融合型法経連携法政策学研究」は2022年度科研費基盤Bに基礎法部門で応募した(「法政策学」は基礎法部門の項目として掲げられている)が不採択となった。現在の法律学にとり、経済学的視点を理論分析のみならず、実証分析についても取り入れることは世界の主要な動向となっており、現代の法律学にとっての喫緊の課題となっているが、これからの法学を開拓せねばならないはずの基礎法学部門が、本研究の重要性・革新性を理解できないことは大変残念であり、現在の我が国法律学の現状を物語っているように思われる。
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次年度使用額が生じた理由 |
2022年度に実施予定であった国際共同研究がコロナ禍で実施できなかったため一分予算を次年度に回した。
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