研究課題/領域番号 |
18K01341
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研究機関 | 熊本大学 |
研究代表者 |
河野 憲一郎 熊本大学, 大学院人文社会科学研究部(法), 准教授 (40350293)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | チャプター・イレヴン / 会社任意整理(CVA) / 債務再編計画(SA) / 保護傘手続 / 非典型担保 / 会社の組織的側面 |
研究実績の概要 |
本年度は、全体の研究の基礎固めを行なった。 まず、比較法研究として、アメリカ合衆国におけるチャプター・イレブン(=更生)手続不要論の文献のほか、英国の会社任意整理(Company Voluntary Arrangement)や債務再編計画(Scheme of Arrangement)およびドイツの保護傘手続や倒産前の企業の再生についての文献収集を行った。これらのうち英国法との比較において、ドイツの倒産前の企業再生手続の展開を提案する文献については、文献紹介を著した。その際、ドイツ法では、英国のCVAやSAとは異なり、裁判所が重要な役割と形成的な効力を持つこと、裁判所の監督に服する監督人もいることが重要な相違であり、こうした手続構造上の相違を注意深く考慮して、わが国の議論を展開する必要があることを明らかにした。また、わが国においてもっぱら倒産ADRのみを活性化する議論をするのであれば、それは債権者に法的な手続を保障するという観点からは非常に問題であって、むしろ裁判所の関与の下で、株主自治を排除し、組織の再編にまで至る法的手続を保障しておくことが求められている、との帰結にも至った。 また、判例研究としては、非典型担保の処遇や小規模個人再生に関する研究を行ない、あわせて最近の判例の評釈を公刊した。前者の非典型担保に関する研究を通じて、今日の企業金融の一端について理解を深めることができた。また、後者の小規模個人再生は、あくまでも個人の倒産処理に関するものであって、事業再生に関するものではないが、この「回り道」は、それとの対比で裁判上の企業再建手続の構造を明らかにする上できわめて有益であった。 さらに、具体的な事件を取り扱った代理人弁護士の話を聞く機会を得たほか、指導的な倒産実務家と意見交換をして、わが国の問題状況について、より知識と正確な理解を得ることができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成30年度の研究を通じて、本研究のサブテーマのうちの2つ、すなわち(ⅰ)裁判上の制度としての倒産手続の基本的特色と(ⅱ)法的整理と私的整理との境界、および、両手続間での移行に際して問題となる実体法上の諸問題に関して、ひととおりの理論的整理に至ることができたから。
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今後の研究の推進方策 |
今日の事業再生の実務においては、私的整理の活発な利用とこれに伴う法的整理の利用の著しい減少が見られる。このことは、ともすれば裁判上の企業再建手続、特に会社更生手続の不要論にも向かいかねない。しかし、例えば会社更生手続を見てみると、組織的側面での再編というのが、この手続の不可欠の要素となっている。そして、この点に、裁判所による強制を伴った事業再生手続の存在意義を見出すことができる。今後、この点を1つの軸にして、わが国の法的整理の手続の全体構造と存在意義とを明らかにする予定である。 その上で、従来の破産手続に横並びの議論としてではなく、再建型手続に即した形で、債権の優先性や劣後化の問題を検討する。 さらに、企業への金融の多様化、債権回収の多様化、担保関係の多様化、さらには手続に関与するプレイヤーの多様化といった諸現象に目を向けながら、私的整理との連続性や現実の手続の動態性を組み入れる形での法的整理の理論を明らかにしたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
購入を予定していた洋書につき、現在改訂中との情報を得たため、購入を延期した。最新版が出るか、当該文献を引用する論説の執筆時期かの兼ね合いを踏まえて、近々購入の予定。
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