最終年度(令和2)は、今日需要の急増している劣後ローンを特に念頭に、「債権の劣後化」の実質的根拠を明らかにする作業を行った。従来、必ずしも倒産手続の構造に即した理論的に明確な整理がなされていなかったところ、研究実施の成果として、当該債権者が倒産手続における責任法的割当てから自らの意思で抜け出ること、そのことが他の債権者の法的地位に何らの不利益を及ぼすものではないこと、がその根拠であることを明らかにしえた。また、法的整理手続開始の局面、破産配当の局面、再建計画手続の局面での劣後ローンの取り扱いについても一定の方向性を示しえた。 本研究は、近時の事業再生においてみられる法的整理と私的整理の接近ないし融合現象を的確に位置付け、解決策を示しうる「理論」の構築を目指すものであり、そのために(ⅰ)平成30年度は、事業再生手続の基礎理論、(ⅱ)平成31年度(令和元年度)は、商取引債権者の優先的保護の法的根拠、(ⅲ)令和2年度は、再建の劣後化の問題(上述)を検討した。これらの研究の結果、①いわゆる債権者平等取扱原則は、倒産(特に破産)手続において、手続の開始によって債権者は固定され、限界付けられた財産を責任法的に割り当てられることとの関連で理解されるべきこと、②かかる意味での清算価値が保障される限度において、会社更生や民事再生では、厳格な債権者平等原則が修正されるべきこと、また、③債権の劣後化も、上記の通り、責任法的割当てとの関連で理解されるべきことなどを明らかにしえた。 ここから引き出される帰結、すなわち、一方で、法的整理手続においても、厳格な債権者平等原則に縛られない柔軟な取り扱いの余地が認められていること、他方で、法的整理の手続においては清算価値の保障が最重要の大原則であって、それゆえに裁判所の関与に重要な意味が置かれているのだということが、事業再生の実務にとって重要であろう。
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