研究課題/領域番号 |
18K01345
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
箱井 崇史 早稲田大学, 法学学術院, 教授 (60247202)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 運送契約 / 運送人責任 / 高価品 |
研究実績の概要 |
2018年度は、設定した課題のうち、運送人の責任制度における高価品特則な・重過失の問題に着手した。しかし、研究を進めるうちに、その後の課題であった運送人の不法行為責任の問題とも通底するであろう前提的な問題意識を得るに至った。 すなわち、これまでの一般的な議論、とりわけ裁判例に対する違和感の原因として、一つには「商法としての発想の欠如」があり、もう一つには「運送の制度的認識の欠如」があるのではないかと考える。 前者は、運送契約は大量・定型の契約が迅速に締結され、典型的な商取引であるにもかかわらず、訴訟では個別具体的な問題解決が優先され、商法の視点が看過されているのではないか。実際に訴訟となるのは数千件、数万件に一件という特殊的なケースであるが、裁判官の視点からすれば、これだけが具体的対象としての一件となる。商法は、運送契約の特殊性を認識し、この数千件に一件という場面での過失や重過失を許容しようという考え方から立法されているようにみえるが、こうした認識を欠いて、あたかも民法などの適用場面と同様の感覚で法律が解釈・適用されていないだろうか。そうだとすれば、この認識の相違は、解釈およびその結論に影響を与えても不思議ではない。 後者も類似の着眼点であるが、運送契約は運送人と荷送人の間の契約であり、この二者関係が基本であるところ、実際の規定の解釈の場面で念頭に置かれるのもこの単純な原初型である。それゆえ、実際の荷送人が契約荷送人に発送を委託し、または運送人が実際運送人として下請運送人を利用した場合の法律関係を総合的に考察することが困難となる。個別問題としての問題意識はすでに指摘されて検討されているが、ケースごとに、運送制度としてマクロ的に全体を見渡す視点が欠けているように思う。本年度はこうした前提的な検討に時間を費やしたが、新たな研究の展望が開けるという大きな成果を得たように思う。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
本研究は、2018年4月より開始したが。この翌月に、勤務先大学の法学部長の候補者となり、9月に法学学術院長・法学部長に就任し、行政職に忙殺されることになった。これは、当初はまったく予期していない事情の変更というほかなく、研究そのもは継続しているものの、エフォートの面で著しい低下があったといわなければならない。
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今後の研究の推進方策 |
前述の状況は当面変化を期待できないものの、成果報告で記載したような新たな展望を持つことができたので、さしあたり研究計画そのものは変更しないで、継続していきたい。 もっとも、具体的な研究課題3点の前提として検討すべき問題について着想を得たので、まずはそれを検討して、小さい論文にまとめることができればと考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
すでに進捗について記載したように、予期しない行政職就任に伴うエフォートの大幅な低下により、予定通りに研究が進まなかったため、使用金額も予定に達せず、結果として次年度使用額が生じた。
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