研究課題/領域番号 |
18K01345
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
箱井 崇史 早稲田大学, 法学学術院, 教授 (60247202)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 商法改正 / 物品運送契約 / 運送人 / 民事責任 / 重過失 |
研究実績の概要 |
2021年度は、新型コロナウイルス感染症の影響が継続し、勤務先大学の法学部長として引き続き難局への対応に終始することになり、結果として必要なエフォートを確保できなかったため研究の進捗をみなかった。関連する若干の資料の収集を行うにとどまったため、研究期間の1年の延長申請を行っている。 本研究との関係では、構想の点において一定の進展をみることができた。本研究は、改正商法における運送人の責任を対象としており、各論としては「高価品特則」および「運送人の重過失」等を提示しているが、高価品特則とともに議論された「無謀行為」概念の商法への採用見送りについて、先に検討することが有益ではないかと考えるに至った。また、運送人の運送品に関する責任は、基本的には運送品価額を基礎とするが(商法578条)、この点は実際には標準約款等の運送約款、さらに特別法(国際海上物品運送法の責任制限規定など)により、多くの場合はこの原則が大きく修正されている。そこで、いわゆる手間賃たる運送賃を収受するにとどまる運送人の責任について、運送品価額を基礎とした損害賠償責任を「原則」と考えることの是非すら問題となりうるものと考えるに至った。すなわち、運送人は、通常は運送品の価額を知り得ないのであって、このことから生じる問題は、実際には多くの場合に約款等によって解決されているともいえる。しかし、商法の運送人責任規定では、そのための手当がなされていないばかりか、今回の改正では「重過失」ある運送人は高価品特則を援用できないことが明定されたため、ここに述べた視点からは、むしろ「後退」とさえ評価できるように思われる。 以上のように、成果こそ発表に至っていないが、予定した各論的検討対象について、根源的な問題所在に関わると思われる着眼点を得たことは重要な成果であると考える。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
研究開始年(2018年)9月より勤務先大学の法学部長に就任することとなりエフォートが大きく低下したのに加えて、2020年初頭から今日まで新型コロナウイルス感染症の拡大への学部の責任者として対応にあたる必要があり、特に2020年度からほぼ研究が停止した状況にある。そのため、さらに1年の研究期間の延長を申請したところである。
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今後の研究の推進方策 |
研究の遅延は、行政職就任と、とりわけ新型コロナウイルス感染症によるものであるが、本年9月に法が宇部長の任期が満了するので、エフォートの回復が見込まれる。さしあたり、先に示した構想に基づき、運送人の重過失との関係で、改正商法による「無謀行為」概念の不採用に関して検討を進め、できれば本年度中に成果を公表したい。 なお、拙編著『船舶衝突法』の第2版で、やはり商法改正に関する部分を執筆しており、本研究の直接的なテーマではないが、関連するものとして成果を公表していきたいと考えている。なお、船舶衝突に関しては、2022年5月に国際シンポジウム(オンライン)で講演の機会を得ることができた。
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次年度使用額が生じた理由 |
主として新型コロナウイルス感染症の影響により研究の遅延が生じたため。
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