本研究は、2018年改正商法の下での運送人責任制度の重要問題を明らかにすることを目的として開始された。研究開始早々に、行政職への着任およびコロナ禍の発生という予想外の事態に見舞われ、大きな影響を受けたことはこれまでに報告してきたとおりである。 ようやく2022年度に入り、収集した文献などを活用しながら少しずつアウトプットできるようになってきた。本研究において最も重要な視点の一つとして、運送契約法と一般法との関係があるものと考えている。これまでの運送法の研究は、当然ながら、問題ごとに民法の一般法の存在を前提として、その特別ルールとしての運送契約法をみてきている。そして、これまで一般法のルール、とりわけその「大原則」が壁として存在していたところでも、関連条約の改正などいわゆる外圧などもあり、状況に変化が見られている。たとえば、2018年商法改正では、運送人の不法行為責任に関する規定が設けられ、そこでは契約の相対性原則がギリギリのことろまで修正されたり、契約法の規定の不法行為責任への準用が規定された。もちろん、これは私法の大原則を否定するものではなく、立法による特別法の整備といいうべきであろうが、運送契約法の対象としての運送制度を直視し、その制度としての妥当な結論を導こうとする長年に亘る必然的な展開の結果であるとみることもできるであろう。そして、2018年改正までに、かなりの問題はこうした過程において解決してきたともいえる。 しかし、本研究がまさに未解決の問題として指摘したところは、なおこの「過程」の途上にあるということができるように思う。不法行為責任規定の射程外として残された部分がそうであるし、高価品の課題についても同様の視点からの考察が示唆的である。 本年度は、直接の成果とは考えていなかったが、運送契約法改正に関する原稿が重要であった。これとは別に、処分権について論考を発表した。
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