研究課題/領域番号 |
18K01348
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
松村 和徳 早稲田大学, 法学学術院(法務研究科・法務教育研究センター), 教授 (20229529)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 裁判官の積極性 / 発問義務 / 手続集中 / 当事者行為の規律 / スイス民事訴訟法 / インストラクション手続 / Aktenschluss |
研究実績の概要 |
本研究は「真実に合致した裁判と迅速な裁判の実現」という観点から、この裁判官の積極性と当事者行為の規律の関係を明らかにすることを目的とする。これまでの研究から、わが国では、裁判官の積極性が手続集中の鍵となるが、裁判官の積極性の観点からは、裁判官の発問義務・指摘義務、当事者への出席命令、職権による文書提出命令などとの関連で当事者の真実義務を考慮する必要があること、そして、この真実義務は当事者の証拠調べ協力義務との関係が重要であり、当事者行為の失権を導き出す前提になるのではないかとの問題意識を持つに至った。 昨年度は、海外視察を予定したが、コロナウイルスの影響で視察のみならず、大学研究室での研究ができなくなった。そこで、在宅での研究が中心となった。 今年度の本研究の対象として挙げたスイス民事訴訟法の研究が大きく進展した。とくに、スイス民事訴訟法において主要弁論(期日)の準備を目的し、とくに、事実陳述及び表示された証拠方法に関する不明瞭性を発問義務の行使によって解消しインストラクション手続の研究、及び、事実及び証拠方法の提出を制限するAktenschlussの方法が本研究の目的である「裁判官の積極性と当事者行為の規律の関係」についての一つのモデルを提供できると思われた。そして、この研究については、令和3年度に早稲田大学比較法研究所叢書として「スイス民事訴訟法概論」を上梓することになって、一定の成果を出せたと考える。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本件研究は、平成30年度及び令和元年度においては、民事訴訟法制において真実義務導入や当事者行為の失権強化の先達となったオーストリア民訴法、母法国ドイツ民訴法及び最新のスイス民訴法を中心に、この当事者規律をめぐる評価等に関する情報収集と整理を中心的に実施していくことを内容とした。 令和元年・2年度度の研究は、この研究をベース に、①二次的主張責任、②信義則による当事者の行為規律及び③真実義務の観点からの①②の分析を研究課題として実施してきた。①については、ドイツ・スイス法での議論を中心に実施した。ドイツ法では、当事者間の協力義務が議論され、ドイツ民訴法138条1、2項、同277 条1項、同282条1項及びドイツ民法242条に関する学説・判例が二次的主張責任の根拠付けで検討されていることがわかった。また、スイス法では、弁論準備を目的とするインストラクション手続の審理が特色があり、裁判所の発問義務の行使と事実及び証拠方法の提出を制限するAktenschlussの方法により当事者行為の規律がなされていることがわが国にとって参考になると考えた。②については、信義則による当事者の行為規律をわが国における判例の展開を中心に考察・分析した。我が国では、信義則による当事者行為の規律が中心となっているが、その基準が必ずしも明確でないことを明らかにした。 ③において、これら①、②についての議論を比較法的にドイツ法系諸国の研究者等との意見交換を通じて分析・検討し、当事者の行為規律のあり方についての考察を深めることをめざしたが、コロナウイルスの影響で渡欧ができなく、視察ができなくなったので、当初の予定よりやや遅れている。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究は、コロナの影響により、当初予定していた海外視察ができない状況となり、実質的にはこの影響のために、この2年間計画があまり進展していない。コロナの影響は今年度も継続している。そこで、本年度は海外視察を諦めて、本研究の最終年度の研究計画であった、わが国民事訴訟法について「真実に合致した裁判と迅速な裁判の実現」という観点から、この裁判官の積極性と当事者行為の規律の関係についての理論的評価を試み、解釈論上及び立法論上の提言を行うことを目的とする。基本的には、諸外国の文献の収集やインターネットを活用した情報収集を行って、研究を継続していく予定である。 具体的には、次のような研究を実施していく。 ①前年度までの研究成果をまとめて、とくに、ドイツ法、スイス法、オーストリア法の研究成果を整理し、わが国民事訴訟法における当事者行為規律の変遷、とくにその実務改革、改正の歴史的変遷の理論的検討と検証結果をまとめていく。その際、裁判官の積極性と手続による失権とがどのような関係に立っているのか、さらにこの点につき、真実義務がどのようにかかわってくるのか、そして、「真実に合致した裁判と迅速な裁判の実現」のためには、これらの関係をいかに規律すべきかを実務的観点から検討・検証していく。 この点については、わが国の実務家との意見交換を行う予定である。 ②次に、その検討結果による民事訴訟法に関する評価と解釈論上の指針を提示する。そして、将来の法改正に向けた方向性を提言していく。研究結果は、研究会等で報告し、他の研究者からの意見照会を実施する。③②の結果を踏まえて解釈論上の指針と立法的提言についてさらに改善し、確定する予定である。そのうえで、④成果の公表の予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
令和2年度の研究は、コロナの影響により、交付金の多くをあてて、予定していた海外視察ができない状況となり、また、同様に国内での実務家などとの意見交換・実態調査を予定していたが、それもできなくなった。さらに、その結果、研究の進展が遅れ、研究計画自体を大きく見直す必要が生じ、人件費・謝金も発生しないことになった。これらの結果として、次年度使用額が生じてしまったのである。 コロナの影響は、令和3年度も続きそうである。そこで、本年度は海外視察を諦めて、①国内外の研究者との意見交換等を行うための、インターネット環境の整備、②文献等の購入、③研究成果の整理・分析補助のための人件費・謝金、④国内の実体調査、意見交換、研究発表などのための旅費、⑤研究成果の公刊等の準備のために、交付金を使用していく予定である。
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