本研究は「真実に合致した裁判と迅速な裁判の実現」という観点から、この裁判官の積極性と当事者行為の規律の関係を明らかにすることを目的としてきた。そして、これまでの研究では、訴訟における事案解明の局面での当事者の情報収集行為(協力義務)のあり方だけでなく、その当事者行為の評価のあり方が問題となっていることがわかってきた。前者の行為規律の関係では、民事訴訟における情報収集の拡充とそれに伴って生じる秘密保護のバランスの問題が浮かび上がってきた。この問題は、主張・立証段階における当事者行為の規律と結びついた民事訴訟における事案解明の問題でもあることがわかり、この点については比較法的考察を行った。また、後者の行為評価の局面は、近時の手続保障理念の影響を受けた判決効理論にも密接に関連しており、とくに信義則による遮断効論、訴訟告知効、そして広義には訴訟上の和解の効力論を題材にして研究を行った。前者においては、とくに事案解明についての当事者の協力義務に関してドイツ法を中心にフランス法、アメリカ法を研究し、考察した。ドイツ・フランス法では、主張・証明責任を負わない当事者は、相手方がアクセスできない情報や証拠方法を有する場合などには事案解明の協力が義務づけられており、アメリカ法ではディスカバリー手続において当事者の包括的協力責任が認められているだけでなく、相手方の情報への調査・探索権が認められていることが明らかになった。本研究では、わが国でも当事者の事案解明協力義務を一般的に承認していく理論構築が必要であり、また他方で裁判官との協力責任の構築が必要との結論に至った。また、後者の当事者行為の評価については、現在の民訴法理論が基礎とする紛争解決理念と手続保障理念が果たして適切な判決効理論を構築しているか、法的安定性、不意打ち防止の観点から疑問が生じるとして、本研究ではその再考の必要性を指摘した。
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