研究課題/領域番号 |
18K01349
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研究機関 | 関西大学 |
研究代表者 |
水野 吉章 関西大学, 法学部, 准教授 (80527101)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 公営住宅 / 借地借家法 / 賃貸借契約 / 正当事由 / 定期借家契約 / 使用承継 |
研究実績の概要 |
借上げ公営住宅は、賃借された建物を公営住宅として入居者に賃貸する仕組みである。平成8年に公営住宅法(「法」)に導入された。これに関して、事業主体は、入居者に借上期間及び期間満了時の退去義務の通知を義務づけられ(法25条2項)、また、事業主体は、期間満了時に入居者に対する明渡請求権を有する(法32条1項6号)。これらの意義が明らかではない。 平成8年時点で、転貸借に関する規律として借地借家法28条(建物所有者が原契約を解約ないし更新拒絶する場合)及び転貸借に関する判例法理(原契約が債務不履行により終了する場合、合意解約される場合)がある。(転貸人が原契約を更新拒絶するような類型は平成14年判決によって認識された。)立法時には、建物供給を鈍らさないため建物所有者が建物の返還を求める場合の明渡し規定と、一定期間以上の住宅提供を担保するため原契約の期間の定めが議論されるに留まる。 【1】以上の沿革の整合的理解によれば、建物所有者の正当事由に使用関係の終了をかからせる規律(法25条2項及び法32条1項6号等)が必要とされ、事業主体が自由に原契約の更新を拒絶し使用関係を終了させることは予定されずその場合は従来の明渡事由(入居者の高額所得・住宅困窮の解消等)によるとされたものと思われる。【2】他方、下級審は一般の公営住宅にかかる賃貸借契約の性質として入居者の居住の継続を前提とされないことから、入居者は法25条2項により期間の存在も知らされる必要なく、代替住宅の提供のみで賃貸借契約を終了させられ得るとする。 両説の本質的相違は、「公営住宅にかかる契約の性質が通常の賃貸借程度(期間の定め・正当事由、定期借家、従前の公営住宅の明渡規定程度)に継続を前提とするか否か」にあるとわかった。 これに関して、公営住宅全般に関わることであり社会的影響も大きいことから、最高裁による判断が必要となっている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
【借上公営住宅について】借上げ公営住宅については、予想以上に判決が出されたので、これらの分析を通じその法律関係を研究した。結果、研究計画提出から現在に至るまで(内定前2本含む)に、論説4本、評釈1本を執筆した。また、現地調査及び入居者に対する聞き取り、居住福祉学会で報告(5月)を行い、市民向け講演会に登壇した(10月、12月)。 研究の内わけは、判決を踏まえ、借上げ公営住宅の規律(法25条2項及び法32条1項6号の関係)について1本、これに帰着する問題として関連規定の遡及適用を定める改正附則5項の効力について1本と、使用承継の際のこれらの規定の効力(関連して公営住宅における定期借家)について1本、下級審の主流を占める法25条2項の不要説について1本、上記を基礎として裁判例の評釈について1本である。 実績の概要に示したとおり、各論点は、「公営住宅にかかる賃貸借契約一般の性質」の理解に帰着する。前記【1】【2】の他に、【3】法25条2項を定期借家における説明を構成するものとも考え得るところ、定期借家は入居者の居住の継続を前提として、その終了を合意にかからせ社会効率を図るものであることから、【1】に分類される。 【応能・応益賃料について】こちらに関しては、収集した判決文を勉強会の利用に供することができるように冊子にする作業を行っているところ、判決原文の名前などをプライバシーとの関係で塗りつぶすことに時間をついやしている。これについては本年度中に完了し分析に入る。 ただし、応能・応益賃料の問題についても、公営住宅にかかる賃貸借契約の性質が基礎にある。したがって、前記借上げ公営住宅に関する研究と基礎的な部分について共通し、その限りで進捗がある。
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今後の研究の推進方策 |
第一に、前記に得られた課題であるところの「公営住宅にかかる賃貸借契約の性質」については、公営住宅法制定時から現在に至るまでの公的解説書・内閣の答弁・国土交通省による資料などを調査すれば明らかになるものと思われる。感触としては、公営住宅にかかる賃貸借契約に関する規律は借地借家法の規律を公営住宅の文脈において具体化するものであり、行政の広い意味での政策的考慮(財政やコンパクトシティ等)については、それによって入居者の契約上の権利が侵害されないように法が歯止めとされているように見える。 また、行政の政策的考慮によって、事後的に契約上の入居者の権利が修正されることを認める下級審の見解については、定期借家の際になされたような効率性の観点からの評価が必要であると思われる。 第二に、公営住宅にかかる賃貸借契約に関する判例である昭和59年判決・平成2年判決等関連判例の理解についても、現時点で再整理を行い、更新する必要があると思われる。 第三に、借上げ公営住宅にかかる事業主体側の施策について、事業主体の対応は分かれている。原則的に事業主体が原賃貸借契約を自由に更新拒絶させ得る(使用関係を終了させ得る)という立場に立ち、例外的に継続入居を認める方策を採用している事業主体があるが、これについていかなる政策形成が行われたのか、公営住宅法の趣旨や借地借家法がいかに理解されたのかについて調査を要する。公営住宅法や借地借家法において、一般的に賃貸借契約は解約し得て当然と理解されてこのような施策に至ったなら、これは、第一の問題に帰着する。 第四に、応能応益賃料と公営住宅にかかる賃貸借契約についても、遡及効や公法と私法の適用関係に関わり、上記の論点と関わりが深い。その関連性を意識しながら調査を進める。
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次年度使用額が生じた理由 |
理由:上公営住宅に関連して判決が予想より多く判決が出されたため、その研究に時間と資源を費やしたため、応能応益にかかる経費が少なくて済んだ。ただし、応能応益にかかる経費については、資料の整理に予想以上に人件費がかかることから、本年度以降に執行することとなる。 使用計画:第一に、本年度は、前年度に予定していた応能応益賃料にかかる裁判の資料の整理を予定通り行う。第二に、またその資料の整理には予想以上に費用がかかることがわかったので、優先的に配分する。第三に、さらに、借上公営住宅にかかる調査のために、各都道府県の条例などを網羅的に調査するため人件費に配分する。第三に、借上公営住宅の入居者に対する聞き取り調査については、入居者が裁判中で有り心身の状態が心配されることから、慎重に行うことから予定より抑制される可能性がある。第四に、本質的な問題が公営住宅にかかる賃貸借契約そのものの規律の特定にもあることから、この点についての関連判例や背景にある民法の規律などについての資料の調査を行う必要がありこれにかかる資料の収集などに費用を要する。これについては、もともと2年目以降は資料代に多くを配分してあることから予定通りである。
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備考 |
内定前に2本の論文を提出。市民向け講演:水野吉章「災害に向けて、私たちに出来ることは?借り上げ復興住宅問題を知っていますか?」西宮市いきいきフェスタ(2018年10月28日)。他1件。
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