本研究では関連する裁判が進行していたことから借上げ公営住宅の研究に重点を置いた。通常公営住宅の提供契約においては、公営住宅が入居者の生存を守るためのものであるから解約に際して厳格な規制がかかっているところである。他方、借上げ公営住宅においては、賃借人は賃貸借契約を自由に解約できるという民法の法理が援用されることによって、賃借人である事業主体が転貸している公営住宅の提供を打ち切ってしまうというところに問題がある。借上げ方式の導入時点(平成8年)においては、転貸借において原賃借人が原契約を解約するという問題が十分に認識されていないから、それを前提とするこの実践は予定されていないものである。これによって事業主体の裁量(その背後にある地方議会の意思)に入居者の生存が左右されてしまい、加えて、多くの下級審がこれを承認してしまっていることから、法の支配が及ばない領域が作り出されてしまっている。 期間の前半にかかる本研究では、沿革に着目し、借上げ公営住宅においては建物所有者による(正当な)返還要求に応じるために公営住宅にかかる規制が緩められたことから、その解約はこの場合に限定されるとの結論に至った。自治体都合による解約は、通常の公営住宅にかかる解約事由に限定すれば十分である。 最終年度を含め期間の後半には、上記に付随した問題として、解約に際した転居にかかる扱いについて研究した。借上げ公営住宅に関し、入居者の健康不安等から転居に躊躇した場合であっても、(再)入居資格を失わせる等の制裁をもって対応した事業主体が見られた。このような扱いを避けるため本研究では、裁判所がその当否を判定し、転居が相当であれば事業主体は、その相当な住宅提供義務を負うようにする転居フローを構築する必要があるとの結論を得た。また、震災対応などで活用される仮設住宅における法律関係にも本研究の応用が利くことがわかった。
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