研究実績の概要 |
2020年度は、不法原因給付の返還遮断の可否について、PECL等の国際的モデル準則で示された、わが国の民法708条および判例学説のアプローチ(原則遮断アプローチ+要件アプローチ)とは異なるアプローチが、各国法の解釈論にどのような影響を与えているかを分析することによって、あるべき判断枠組みとそれを支える原理を析出する一環として、ドイツにおける贈与サークル(Schenkkreis)、および、租税逋脱を目的とする不正労働に関する議論を検討した。 とくに後者について、ドイツ連邦通常裁判所は、初めてドイツ民法817条2文を禁止法(Verbotsgesetz)の一般予防効(generalpraeventive Wirkung)の観点から初めて制限した(BGHZ 111,308)。請負人の労務給付の価値についての不当利得返還請求を信義則(242条)を用いて認めたが、その理由として、①不正労働防止法は公益の確保(失業者の増加ならびに税収の減少の防止、社会保険担当機関の損害の防止、および、正規労働者ならびに瑕疵担保請求できない注文者の保護)を目的としており、請負代金債権を否定することで十分に達成できること、②刑事訴追の危険、および、税・社会保険料の追納により、不正労働に対する一般予防の効果が生じること、③たいていの場合、注文者のほうが不正労働者よりも経済的に強く、前者が優遇されるべきではないことを挙げる。しかし、同条の制限を信義則によって行うことに対する学説からの批判を受け、2004年の不正労働防止法改正により、その目的を貫徹すべく、請負人および注文者が租税逋脱行為であることを認識し、さらに注文者がこれを自己の利益ために利用する場合に、当該請負契約を無効にしたうえで、両者が行った給付の巻戻しを遮断する(BGHZ 201,1;206,69)。
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