研究課題/領域番号 |
18K01354
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
山本 哲生 北海道大学, 法学研究科, 教授 (80230572)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 約款解釈 |
研究実績の概要 |
約款解釈につき争いが生じた場合、つまり、いくつかの解釈が主張され、当事者の意思が必ずしも明確ではない場合に、効率性の見地から解釈するとして、1つには余剰を最大化する解釈はどれかを探究することがありうる。ただし、この観点から具体的結論を導くことは困難であるともいわれる。具体的な個々人の選好は人によって異なるものであり、客観的に判断することは困難である。したがって、通常の人の選好を問題にすることになるが、それも必ずしも明確に判断できるとも限らない。当事者は紛争が生じた後で、その紛争を有利に解決するために、事前の判断とは異なる主張をすることもありうる。また、裁判所は当事者の余剰の最大化を判断するのに必要な情報をもたないといわれる。 次に、費用の削減につながる解釈をすることで、効率性に資するということがありうる。アメリカにおいて伝統的な解釈ルールである、明白な意味で解釈するという原則、書面が完全な契約となっているなどの場合には書面以外の取引慣行等の証拠は考慮しないというパロル・エビデンス・ルールはこのような見地から説明される。ただし、書面以外の証拠を考慮しないということをどこまで厳格に理解するかは、判例上まったく統一されていない。これは契約解釈は当事者の意思を探究する作業であるという見地からして、書面以外の証拠を考慮しないと適切な結論が導かれないということにも関わる。そこで、証拠をどこまで考慮するか、どのような解釈方法によるべきかを当事者が選択できるという枠組みも示されている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
昨年度に研究した作成者不利の原則について、ペナルティ・デフォルト・ルール等の観点からのアメリカの議論を整理し、分析した論文を公表した。 その上で、効率性の見地からの解釈として、余剰最大化から具体的な結論を導くことができるかどうか、その問題点などの議論を整理している。個々人の選好に合わせた解釈は、個々人の意思が明らかではない限り、困難である。ただ、一般的な消費者等の選好に合わせて判断することができるかについては、ある程度このような判断を行う試みもないわけではない。 また、取引費用の削減という見地から適切な解釈方法を考えるという角度からの分析は色々と行われており、そのような議論をまとめている。具体的には、明白な意味の解釈の原則、パロル・エビデンス・ルールを主に対象としている。これらはアメリカにおける伝統的な原則であるが、その具体的なあり方は実際の裁判所の運用として非常に多様であり、まったく統一されていない。このような現状を踏まえて、望ましいあり方についての議論がなされており、そこでの大きな視角の1つが取引費用の削減である。 このように契約解釈と効率性についての、基本的問題についての議論の整理、分析を進めており、順調に進展しているものといえる。
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今後の研究の推進方策 |
まずは、効率性の観点からの契約解釈方法論の分析をさらに進める。取引費用の削減という見地からは、取引当事者が解釈方法を定めるという方向性、取引当事者の属性(消費者取引か、企業間取引かなど)によって異なる解釈方法をとるというような方向性が見られ、そのような観点を含めて、アメリカでの議論の整理、分析を継続して行う。効率性の観点からはどのような角度からの分析がなされているかをまとめる。 これをまとめた上で、効率性の観点からの議論の限界、解釈方法論への別のアプローチとして、どのようなものが考えられるかについても検討を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
購入を計画していた図書の発行の遅れなどから、今年度に使用しない額が生じた。これらの図書の発行の状況をみながら、別の図書を購入するかどうか検討し、次年度に使用する。
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