本研究は、外国判決の執行許可手続の簡素化による実効的な権利保護と債務者の実体的利益・手続保障との調整を如何に図るかを考察し、わが国の執行判決制度のあるべき姿を模索することが目的であった。 上記目的のもと、本研究ではまず、執行許可手続を廃止したEUにおける立法動向を調査し、その特徴と課題を明らかにした。ブリュッセルIa規則は、各構成国の司法制度は同等の権利保護を保障するとの理念のもと、構成国の判決の相互流通を簡易化のため執行許可手続を廃止し、当初は承認拒絶事由の緩和も検討された。しかし、各構成国司法制度の等価値性はあくまで理念であり、現実の各国制度には差異が存在する。それゆえ同規則も承認国による承認拒絶事由の審査の排除までは踏み込むことはできなかった。もっとも、判決国の判決は債務者による異議がない限り執行国でそのまま執行されることから、この点で外国判決の執行の迅速化は図られている。EUの動向について概観する文献はすでに存在するが、その内容を具体的に検討するものはみあたらない。本研究はまず、この点を補完する意義があり、今後、詳細な研究結果を所属大学の紀要において公表する予定である。 他方、執行許可手続の廃止には、EU内に存在する同種の規則との適用関係、また実体的異議の取扱い等に課題も生じさせる。また、EUという国際的枠組みの中での執行許可手続の廃止の議論をそのような枠組みのない固有法の領域に参酌するには、固有法の観点からEU法を批判的に評価する必要がある。これら課題をドイツ法の観点から分析することは、日本法の執行判決制度の改善に示唆を与える。なお分析が必要ではあるが、承認拒絶事由の審査を債務者起動型に変容可能か、あるいは決定手続化をすることが可能かが一つの鍵となりそうである。なお最終年度において、日本法の現状を確認する作業の一環として、後記研究発表欄に記した判例研究を公表した。
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