研究課題/領域番号 |
18K01360
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
松中 学 名古屋大学, 法学研究科, 教授 (20518039)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 新株発行 / 有利発行 / 不公正発行 / 第三者割当 |
研究実績の概要 |
本年は、有利発行規制には、近時の新株発行の事例に照らすと、大株主に対する新株発行による少数株主から大株主への利益移転の抑止という機能がありうることに注目して、裁判例等の分析を行った。その結果、理論的には有利発行規制がそのような機能を持ちうるが、現在までの解釈・運用からすると、そのようなものとして機能するかは疑わしいことが明らかになった。 また、有利発行規制と密接に関わる不公正発行規制についても包括的な分析を行い、主要目的ルールを廃止し、利益相反に着目した審査基準をとるべき旨を提唱した。有利発行との関係では、立法論的には、低い価格による新株発行についても有利発行規制という形で別の規制を置くのではなく、不公正発行の一環として位置づける方が適切な処理が可能になる可能性があるとの示唆を得た。ただし、経営陣と会社・株主の間に生じる利益相反を裁判所が適切に認識しないのであれば、有利発行規制を別立てで置くことによって経済的利益「だけ」はある程度守られる点で、望ましい状態になる可能性が高い。そして、不公正発行の裁判例を分析した結果、支配権争いという狭い範囲の利益相反しか問題とされていない上に、支配権争いの存在を認める範囲自体もともすれば狭められがちであることが明らかになった。そのため、裁判例における現在の不公正発行の判断基準を所与とすると、有利発行規制は存在した方が良いーまだマシといえるレベルではあるがーという議論が成り立つのではないかという一応の結論が出た。これは最終年度において検証すべきものとなる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
大株主がいる場合の有利発行規制の機能という当初は想定していなかった問題が存在することが明らかになった。このために一定の検討時間は必要となった一方、締出しと連続的に把握できる可能性があるという新しい視点を得られた。また、不公正発行規制と有利発行規制の関係については、不公正発行規制の現状を所与とすると、新株発行について一から規制を作る場合とは異なる形で有利発行規制の意義を考えることができる点が明らかになった。当初の計画において、有利発行規制は理論的に正当化することが困難な面があるものの、「現実には何か意味があるかもしれない」という視点を提示していた。上記の点は、このような視点にもとづく議論をおおむね順調に展開したものといえる。
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今後の研究の推進方策 |
これまでに明らかにした、不公正発行規制との関係における有利発行規制の意義、すなわち、5で述べた「判例における現在の不公正発行の判断基準を所与とすると、有利発行規制は存在した方が良いーまだマシといえるレベルではあるがーという議論が成り立つのではないかという一応の結論」の妥当性を評価する。 また、上記の点の検証を論文としてまとめるとともに、これまでの研究のうちまだ公表論文に現れていないもの(あるいは部分的にしか現れていないもの)を論文としてまとめ、公表する。ここには、大株主に対する新株発行における有利発行規制の意義も含まれる。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額が生じた理由 COVID-19の影響により、2020年2月・3月に予定していた研究会・シンポジウム等の出張旅費が執行できなかったこと、および同時期に購入予定であった書籍(洋書)の入手が困難であったため。 使用計画 2020年度の相当部分はCOVID-19の影響により海外はもちろん国内の出張も困難になると考えられる。他方、研究発表の場をオンラインに移す必要もある。そのため、旅費として使用することを予定していたものの一部は、オンラインにおける報告・研究会等の参加を円滑に行うための機材・サービスの利用のために用い、可能な限り研究発表の場を確保するとともに、質の高いフィードバック・情報の収集が可能になるようにする(最終年度であるため、特に研究発表に重点を置く)。また、購入予定であった洋書の少なくとも一部はその後電子書籍としても刊行されているため、輸送の必要な紙媒体のものに代えて、すぐに入手できる電子書籍を購入に切り替える。
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