情報技術の発展と社会の変化により、研究期間を通して分析の対象は漸次的に変化して来た。研究期間の初期は、情報の媒介者に対する差止請求権の一態様であるブロッキング請求権の可否が主要な争点の一つであったが、2020年度以降はプラットフォーム事業者の法的規律のあり方が重要な検討課題となっている。取引型デジタルプラットフォームについては消費者保護のために立法的解決が図られているが、本研究が対象とする人格権の保護と情報財の流通の確保という観点からは、必ずしも十分な法整備が行われているわけではない。例えば、本研究においても検討したように、EU一般データ保護規則(GDPR)の規定するようなデータポータビリティの権利は明文化されておらず、民間団体による認定制度としての「情報銀行」の認定付与サービスがこれに相当するものとして期待されているが、契約をベースとした制度設計に伴う法的課題についてはなお検討が必要である。 そこで、2023年度は、プラットフォーム事業者に関する法規制のあり方について多角的な視点から検討を行った。具体的には、第一に、コロナ禍において行われた個人情報の取扱いに関する法改正と法解釈を検討し、要配慮個人情報であっても、公衆の生命身体健康が対立利益として典型的に想定される場面では、その程度に応じて、情報の流通を差し止める個人の権利が制限されるべきことを論じた。また、第二に、取引型・非取引型デジタルプラットフォームにおける個人情報が情報財としての側面を有することを前提として、その取扱いに対する本人の関与の確保には、従来の請求権型の法規制のみならず、データポータビリティの権利などの競争を通じたインセンティブの付与を検討すべきことことを論じた。そのほか、応用美術の著作物性などの情報財の利用に関する問題についても検討を行った。
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