22年度は、決済プラットフォームとして利用されている「スマート・コントラクト」に関する基礎的研究を進めた。とくにブロックチェーン技術をベースに、取引の発注から決済まで、自動的にプロセスが終了するという性質の「効率性」と、COVID-19やウクライナ戦争等の外部的影響が生じた場合の「脆弱性」とのトレードオフを、法的にどのように認識するかについて、内外の文献をサーベイした。これまでの信用貨幣論・有価証券法理論に関する研究が明らかにしたように、これらの決済手段は、企業取引の迅速・拡大に貢献する機能をし、ブロックチェーン技術を利用する決済手段もまた、同様の機能を果たすものである。しかし、それらが、取引社会に受け入れられるほど信頼されるかどうかは、決済システムの頑健性・安定性に関する取引社会の信認の有無・程度の問題となることを明らかにした。この点から、スマート・コントラクトに関する問題は、有価証券法理と同様に、いったん実行された取引と決済を、一定の事情により覆滅させることが可能か、可能であるとすればどの範囲までか、という問題に還元されることとなる。他方で、ブロックチェーン技術の頑健性が取引社会に定着し、そこに組み込まれたルールが法規範と同一であるとする"Code is Law"の考えも主張される。本研究は、暗号資産に代表される現代的な決済手段の性質・特徴を考慮して、現在の法制度における法定通貨・有価証券法の一般的な規範構造に、どのように位置づけるべきかを考察してきた。スマート・コントラクトもまた、その取引から抽象化された支払決済手段であって、一定程度、原因関係の瑕疵から解放されるとともに、事情によっては、原因関係の影響を被ると考えるほかないが、それが、実際の紛争でどのように扱われるか(たとえば文書の真正性や、債務内容の確定など)は、さらに追求すべき研究課題となる。
|