研究課題/領域番号 |
18K01375
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研究機関 | 京都産業大学 |
研究代表者 |
渡邉 泰彦 京都産業大学, 法学部, 教授 (80330752)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 家族法 / SOGI / LGBT / 親子関係 / 生殖補助医療 / 性別違和 / 同性カップル |
研究実績の概要 |
性別を変更した当事者による親子関係の問題が未解決であるという日本の現状が、生殖不能を性別変更の要件とする性同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する法律3条1項4号が合憲であると判断した最二決平成31年1月23日(集民261号1頁)背景にあると同決定への評釈「性別変更と生殖不能要件 -家族法の視点から」で指摘した。 そして、生殖能力を維持した性別違和の当事者が子をもうけた場合における親子関係の問題について、ドイツ連邦通常裁判所2017年9月6日決定と連邦通常裁判所2017年11月29日決定において、どのような理由から、一方で女性から男性に性別を変更した者が子を生んだ場合に母となり、他方で女性から男性に性別を変更した者が自らの精子で他の女を懐胎させた場合に父となると判断したのかを検討した。これらの検討を「性別変更と親子関係 -ドイツ通常裁判所判例をもとに」と「ドイツの判例と法改正」としてまとめた。 これとともに、性別を超える親子関係について同性カップルの観点からは、ドイツにおけるコマザー関係を対象に研究を進めた。同性カップルと他人との子の共同縁組は同性婚の導入により、異性カップルと同じ扱いとなった。同性婚導入の状況については「ドイツ同性婚導入- 寄せか、詰みか」で紹介した。さらに、異性間及び同性間の非婚のカップルによる共同縁組を一律に禁止することが憲法違反であると判断したドイツ連邦憲法裁判所2019年3月26日決定、コマザー関係が現行法のもとでは認められないと判断した連邦通常裁判所2018年10月10日決定を「同性の両親と子-ドイツ、オーストリア、スイスの状況 -(その6)」で紹介した。ドイツにおけるコマザー関係を比較法研究の対象に追加し、立法の状況の検討を始めた。 同性カップルによる縁組という異なる法的親子関係の問題については、東京高判平成31年4月10日への評釈で検討した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
最二決平成31年1月23日をきっかけに、日本においても性別違和の当事者の親子関係を議論する基盤ができたことから、2019年度前半は、このテーマを優先して研究を進め、成果を公表できている。 2019年9月よりドイツのマックスプランク国際私法・比較法研究所において在外研究をしており、ドイツ法、オランダ法、オーストリア法に関する研究を順次進めている。オランダにおける報告書「21世紀の親子法」の内容について着実に検討を進めており、オーストリア法の資料収集をマックスプランク研究所で行っている。 2019年7月にドイツ連邦法務・消費者保護省が議論部分草案「実親子改正のための法律草案」を公表し、実子法改正の一部として、コマザー関係に関する規定、トランスセクシュアル・インターセクシュアルという別型の性自認を有する者の親子関係に関する規定の提案を行った。研究テーマの性質上、立法の新たな動きに対応することが重要と考えられるため、2019年度後半にドイツにおける実子法改正を研究対象に加えた。これにより、比較法研究の幅を広げることができている。
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今後の研究の推進方策 |
研究計画作成時点では明らかでなかったドイツでの立法が現実に動き出しているため、これまでの研究との継続性の観点から、研究の中心テーマであったオランダとオーストリアとの比較法研究に加えて、ドイツの実子法改正について研究を進める。具体的には、ドイツ連邦法務・消費者保護省の委託による「ワーキンググループ 実子法」が2017年に提出した最終報告書における提言とその理由、この報告書をもとに連邦法務・消費者省が2019年に公表した議論部分草案「実親子改正のための法律草案」における条文の提案を理由におけるコマザー関係に関する部分を、実子法全体における位置づけから研究する。オランダ法については、これまでと同様に報告書「21世紀の親子法」の内容を検討することで、3人以上の実親をどのような状況で認めることが可能であるのかを考察する。 コロナウイルスが拡大する影響から現地調査が不可能な状況となっている。とりわけ、オランダ法について現地での資料収集ができず、研究計画の推進に影響を及ぼしている。この点については、データベースなど代替的な方法を活用することで可能な限り対処する。また、2019年9月から在外研究を行っていることもあり、研究期間を1年間延長することも視野に入れ、現地調査が可能となる時期を見計らって、研究を継続する。
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次年度使用額が生じた理由 |
2019年9月からドイツに在外研究に赴いており、使用額が計画時より大幅に下回った。 物品費は、改めて資料・データベースの購入に充てる。旅費・人件費は、コロナウイルスのパンデミックが治った後に2020年度後半から現地調査・資料収集を行う。
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