研究課題/領域番号 |
18K01385
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
毛利 透 京都大学, 公共政策連携研究部, 教授 (60219962)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | インターネット / 表現の自由 / 匿名性 / プロバイダ責任 / ヘイトスピーチ |
研究実績の概要 |
2020年度には、2020年3月に行ったドイツのNetzwerkdurchsetzungsgesetz(NetzDG)の執行状況についての連邦司法庁での調査をふまえ、研究課題についての考察を進めるつもりであった。しかし、新型コロナウイルス感染症の世界的流行により、私の研究も停滞を余儀なくされた。前年度に引きつづき、今度は同法への民間部門の対応について現地で調査することを考えていたが、コロナ禍により実現できなかった。また、同法律の性格を大きく変えかねない改正案が議会で審議され、その行方に注目していたが、予想に反して法案は成立に至らず、ドイツのSNS規制の将来構想はなお定まっていない。 そのため、少々方針を変更し、2020年度には、ドイツにおける発信者情報開示請求制度につき、まとまった論文を執筆し公表した。発信者情報開示請求の検討は、私法上の権利救済がどこまで実効性を有せるかを示すという点で、本研究課題と直接の関係を有する。しかも、ドイツでの人格権侵害の場合の発信者情報開示は、NetzDGと密接に関連したかたちで立法化されており、ネット上の違法表現減少をねらうという政府の方針の一翼を担っているから、検討の必要性も大きい。2020年度に、日本で発信者情報開示制度の改革が大きく動いたのは想定外の出来事であったが、このような折にドイツの発信者情報開示請求制度についてまとまった考察を公表できたことは、意義深いと考える。 その他、インターネット利用が社会の分極化を促進しているのかという、法規制を考えるうえでも欠かせない社会学的な問題について、専門の研究者の見解を聞き、また発信者情報開示の必要性について弁護士の方から意見をうかがうといった機会をもてた。これらの機会に得られた知見は、もちろん研究の大きな刺激となった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
なによりも、NetzDGの執行状況についてドイツでの現地調査ができなかった。同法に対してプロバイダなどの企業がどのように対応しているのかは、文献調査だけでは十分に把握できない。また、ドイツでの法改正の遅れもあり、同法自体についての研究を進められる環境ではなかった。 上記の「研究実績の概要」でも記したように、ドイツの発信者情報開示請求制度についてまとまった論文を発表したのは一応の成果であったと考えるが、研究の遅れ自体は否定できないと言わざるを得ない。
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今後の研究の推進方策 |
最終年度であるから、研究をまとめることを目指す。海外の現地調査ができるかどうかはコロナ次第であるが、もちろんできるように願っている。また、研究をまとめるにあたっては、広い見地からの検討を行うため、海外、特にドイツの研究者との意見交換が欠かせないと考えており、その機会を得たいと思っている(ただ、シンポジウムなどではなく、個人的な率直な意見交換は、やはり対面でないと行いにくいのはたしかである。)。 仮に海外渡航が困難な状況が続くとしても、できるだけ最新の文献を収集するなど研究の進展を図り、まとめとなる業績の執筆を目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナのため、海外調査を行えなかったことが最大の理由である。 本年度は、できれば現地調査を行いたい。外国の法執行状況については、現地に赴かなければ分からないことがどうしても残る。むろん、できるだけ最新の文献の収集に努めるなど、コロナ下でも研究の進展を図る。
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