研究課題/領域番号 |
18K01388
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研究機関 | 奈良女子大学 |
研究代表者 |
柿本 佳美 奈良女子大学, アジア・ジェンダー文化学研究センター, 協力研究員 (70399088)
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研究分担者 |
松岡 悦子 奈良女子大学, その他部局等, 名誉教授 (10183948)
井上 匡子 神奈川大学, 法学部, 教授 (10222291)
手嶋 昭子 京都女子大学, 法学部, 教授 (30202188)
松村 歌子 関西福祉科学大学, 健康福祉学部, 准教授 (60434875)
山本 千晶 神奈川大学, 付置研究所, 研究員 (90648875)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 配偶者間暴力(DV) / 住居 / アイデンティティ / ジェンダー |
研究実績の概要 |
本研究は、配偶者間暴力(以下DVと略)被害者支援について日仏比較調査を行い、住居がひとの生活世界および社会関係の基盤となり、アイデンティティの継続性を支える機能を持つことに着目し、被害者が加害者から「逃げる」支援に加えて「住み続ける」支援と社会的包摂の可能性を探ることを目的とするものである。 2019年度は、住居の観点から見たフランスでのDV被害者支援および社会的包摂政策に関する調査については、研究代表者が2019年9月および2020年2月下旬から3月上旬にかけて実施した。2019年9月の調査では、9月3日から始まった「女性への暴力」撲滅運動に関する情報とともに、DV被害者への住居支援の法に関する現状、アソシアシオンによる支援とネットワークに関して情報を得た。2020年2月から3月の調査では、「女性への暴力」被害者への支援を行っている関係者へのインタビュー調査と病院付属施設の訪問を通じて、「女性への暴力」が性差別に基づく人権侵害として位置づけられ、政府とアソシアシオンが協働して包括的な対策を推進している現状を知ることができた。 研究実績については、研究分担者の松村歌子氏が井上匡子氏らとともに日本司法福祉学会鈴鹿大会(2019年8月)で報告を行ったのを皮切りに、山本千晶氏とともに東アジアジェンダー法学会(10月)でも報告した。11月には研究代表者が関西倫理学会大会で報告を行った。12月のジェンダー法学会大会では、研究代表者がミニシンポジウムを企画し、井上匡子氏、手嶋昭子氏、松村歌子氏、山本千晶氏が登壇して報告を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
前年度において、国内調査については、DV被害者の住居支援の調査研究を行っている葛西リサ氏、女性ホームレスの調査研究を行っている丸山里美氏を招いてセミナーを開催するなど、すでに蓄積のある調査研究を参照することで置き換えている。これにより、研究分担者は、DV被害者支援に関わる現行法と国際比較の分析に軸足を移すことができた。 DV被害者支援の日本の現状に関するデータ分析については、山本千晶氏が精力的に行っている。山本氏は、配偶者から暴力を受けながらも逃げることのできない被害者の存在を明らかにすることで、居宅にとどまる被害者への支援のニーズを掘り起こしている。 フランスでの調査については、研究代表者が実施している。2019年9月の調査、2020年2月の調査では、アソシアシオンと政府の連携等に関する情報ともに、暴力被害女性を「被害者化」しない支援を目指すアソシアシオンの取り組みについて知ることができた。フランスでの取り組みは、パートナーからの暴力にさらされているひとを被害者化しない点に注意を払っている点で、見るべきものがある。 研究成果の公表については、順調に進展している。2019年8月に開催された日本司法福祉学会での研究分担者の松村歌子氏による企画、10月に済州島で開催された東アジア女性法学会での松村歌子氏・山本千晶氏による報告が行われた。2019年12月に開催されたジェンダー法学会では、研究代表者がミニシンポジウムを企画し、研究分担者の井上匡子氏、手嶋昭子氏、山本千晶氏、松村歌子氏が登壇した。 当初の計画とは内容が若干変わり、研究報告についても予定を前後しているが、上記の通り、全体的に見ておおむね進展している。
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今後の研究の推進方策 |
本研究は、住居から見た配偶者間暴力(DV)被害者支援の分析を通じて、 1)住居と個人のアイデンティティの統合におけるその象徴的役割と2)暴力被害者のアイデンティティの再構築と自己への信頼の形成に至る過程を明らかにすることを目的とし、a.住居という観点から見たフランスにおける社会的包摂とDV被害者支援、b.日本におけるDV法の適用とDV被害者保護、c.住居支援から見えてくる暴力を受けたひとのアイデンティティの再構築とレジリエンスを軸とする。 現在までのところ、b.に関しては順調に研究が進んでいるが、a.とc.についてはフランス調査で進展はみられるものの、日仏比較とするにはさらなる調査分析が必要である。 そこで、次年度は、i)DV被害者支援に関わる国内法においてモデルとされる被害者像と実際のニーズの分析、ii)フランスにおけるアソシアシオンの活動とこれを支える人間観の解明、を中心に分析を進める。 フランスのDV被害者支援は、暴力にさらされている当事者を権利侵害の状態にあるひとと見なし、そのひとが本来の状態に戻るまで伴走するという点に特徴がある。これは、被害を受けたひとが本来的には自律的であるという観点に立つことで、居宅にとどまるか否か等の選択をはじめ、それぞれのニーズに応じて多種多様な選択を可能にする。一方、日本の場合、被害者の安全確保のための対策が主となっていたことから被害者を「逃がす」支援に重きが置かれ、当事者が主体的に選択できるようにはなっていない。 フランスの被害者支援と突き合わせてみると、日本のDV被害者支援を当事者主体の支援に変えるには、当事者を「弱者」として客体化しない人間観も必要であることが見えてくる。次年度は、DV被害者支援に向けた法整備の分析に加えて、法が前提とする人間観も検討の対象としたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度のフランス調査での費用がかさんだことで分担金の残高が目減りし、年度末に計画していたセミナーのための費用を確保したいと考え、前倒し請求を実施したが、新型コロナウィルスの感染拡大の影響により、開催しなかった。 前倒し請求した費用については、次年度に開催する際の費用に充てる予定である。
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