研究課題/領域番号 |
18K01389
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研究機関 | 国士舘大学 |
研究代表者 |
本山 雅弘 国士舘大学, 法学部, 教授 (70439272)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 意匠 / 著作物 / 類否判断 / 侵害判断 / 判断手法 / 保護要件充足要素 |
研究実績の概要 |
本年度は、研究実施計画に従い、意匠法保護秩序と著作権保護秩序との比較考察を主たる課題とした。その具体的内容は、意匠の類否判断と著作物の類否判断の異同についてつぎのような知見を示唆するものとなった。 一つは、両者の侵害判断の手法に関する共通性であり、意匠と著作物の双方の類否判断はいずれも共通点と相違点の全体比較を可能とし、その比較に際しては保護対象となる意匠や著作物の創作性の程度を考察してその妥当な保護範囲を吟味するという、基本的な判断手法において共通性が認め得るという知見である。二つ目には、侵害・類否判断に際して考察対象となる共通点の捉え方に関する意匠・著作物両者の相違性であり、意匠の場合は、共通点は需要者の視点から把握され保護要件充足要素とは必ずしも一致しないのに対し、著作物の場合は、共通点が保護要件充足要素と異なることはなく、しかも、その保護要件充足要素も単なる既存表現との差異では足りず創作者の個性というプラスαが要されるという相違性が認め得るという知見である。そして三つ目には、侵害・類否判断に際して考察対象となる相違点の捉え方に関する意匠・著作物両者の相違性であり、意匠の場合、保護要件充足要素を欠く相違点が非類似判断の根拠となる可能性があるのに対し、著作物の非類似を決定づける相違点には保護要件充足要素が必要であり、創作的要素を欠く相違点が非類似判断の根拠となる可能性はないという相違性が認め得るという知見である。 以上の主たる研究成果は、本研究の目標の一部である意匠法保護秩序と著作権保護秩序との比較考察の課題について、その成果の一部を提供し得るものであり、本研究との関係で重要な成果となり得るものである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度も、感染症対策の影響ゆえに海外調査等が十分に行うことができず、その点で、本研究の進捗には一部に遅れもあるが、これまでの研究成果をベースとして、本研究の最終目標の一部である意匠法保護秩序と著作権保護秩序との比較考察の課題についても、一定の成果を得られたところであり、そのようなことから上記のような評価が可能と思われる。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究を通じ、意匠権と著作権の関係において、保護要件の異同、侵害判断における対比対象の異同、侵害判断の手法および保護範囲の評価手法における異同について、一定の有益な研究成果を得ることができた。 こうした研究成果を踏まえたうえで、昨年度に引き続き、意匠法保護秩序の合理性や比較法的な普遍性の有無等を考察することで、デザイン(応用美術)の保護秩序のデフォルトを形成する意匠法保護秩序の特色の把握を目指す。 具体的には、昨年度に引き続き、意匠法保護制度の歴史的な考察も踏まえつつ、意匠権侵害判断等の解釈論の変遷と意匠保護制度の変遷との間に何らかの関係がないかを探り、そのことにより、わが国の意匠保護制度が形成してきた意匠保護秩序の合理性の所在を検討する。また、わが国の意匠保護秩序の比較法的な検討との関係では、権利保護範囲を特定の「物品」に限定する点はわが国制度の特色と解されるが、そうした「物品」をめぐる特色との関係で、現在の具体的な制度ないし解釈論が整合性を保っているかにつき検討し、その成果次第では、現行制度上の隠れた課題を意匠法制度の特色の観点から指摘する可能性も生ずるように思われる。 なお、一昨年度末から生じた新型コロナウィルスによる海外渡航制限等の事情等により、とりわけ、外国法の比較法研究に関する現地調査を計画通りに進めることができなかった。今後、状況を見つつ、可能な範囲で現地調査を進めたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
理由の主たるものは、新型コロナウィルス対策の影響で海外調査が計画通りに実施できなかった点にある。 また本年度の研究を実施するにあたり、その研究内容の特色ゆえに、結果的に、新たな資料や物品の購入を要する必要が高くなかった点も、理由の一つに挙げられる。 次年度には、新型コロナウィルスによる海外渡航の困難性も緩和することも想定され、本研究の総括に向け、比較法研究の必要等から、相当程度の海外調査や海外文献ないし資料の購入の必要が生ずる可能性が高いので、その面での費用支払いが高まるものと考えている。
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